2種類のガソリンエンジン、1種類のディーゼルエンジンの3種類のエンジンが用意されるが、なんと全機種、新開発エンジンだ。メルセデス・ベンツがAクラスにかける意気込みが伝わってくる。その3種類のエンジンをひとつひとつ見ていこう。
現行のA180は1.6ℓ直4DOHCターボのM270型を搭載しているが、新型は新開発のM282型1.3ℓ直4DOHターボを積む。
出力は、163ps/250Nmと強力だ。ちなみにライバルのVWゴルフTSIハイラインの1.4ℓ直4DOHCターボ(EA211型)は、140ps/250Nmである。欧州で対決するVWのEA211のseries 1.5 evoと呼ばれる、いわゆる『ライトサイジング』ユニット1.5ℓの直4ユニットは
排気量:1498cc
ボア×ストローク::74.5×85.9mm
圧縮比:12.5
最高出力:96kW/4750-5500rpm
最大トルク:200Nm/1300-4500rpm
である。ダウンサイジングではなく、ライトサイジング、と宣言したVWに対して、1.3ℓの直4エンジンで勝負を賭けるメルセデス・ベンツ。
新開発のM282型、期待大だ。
さて、このM282型だが、技術ハイライトを解説しておこう。
まず、ルノーと共同共同開発されたエンジンであることを最初に言っておかないといけない。生産はチューリンゲン工場。いずれはルノーの北京工場でも生産されるようだ。
M282型は、排気量が1332ccだから、表記的には1.3ℓということになる。
ポイントは、気筒休止システムを搭載すること。エンジン回転数が1250-3800rpmで条件が合えば2/3番シリンダーが休止する。残った2気筒が高効率で回り結果的に効率が上がるというわけだ。
エンジンの低フリクション化にも注力している。シリンダー壁には、メルセデス・ベンツ得意のNANOSLIDEを使い、ピストンスカートもEco-Toughコーティングを施している。
技術的なハイライトは、「デルタ・シリンダーヘッド」である。そのカタチからそう呼ばれるが、現行モデルよりシリンダーヘッドの高さは若干嵩むが、軽くて幅が狭いという。さらに吸気と排気のマニフォールドをセミ・インテクテグレートするというのもポイントだ。ダイムラーが特許と保持している高圧噴射ポンプの噴射圧は250bar。インジェクターはセンターフィードだ。
ターボチャジャーのウェイストゲートは、電動式になった。
この新しいM282型は、標準でガソリン・パーティキュレート・フィルター(GPF)を装備する。ディーゼルにおけるDPFのガソリンエンジン版と考えればいい。厳しくなる排気規制に対応するために必須となりそうなデバイスだ。
気になる燃費データは、NEDCの複合モードで
DCTが19.6km/ℓ
MTが17.9km/ℓ
だ。
1.3ℓ直列4気筒DOHCターボ
エンジン型式:M282型
排気量:1332cc
ボア×ストローク:72.2×81.4mm
ボア/ストローク比:1.3
ボアピッチ:85.0mm
圧縮比:10.6
バルブ数:4/シリンダー
最高出力:120kW(163ps)/5500rpm
最大トルク:250Nm/1620-4000rpm
リッター当たり出力:90kW/ℓ
ターボ:シングルスクロールターボ。
A250用2.0ℓM260型は次ページへ
A250が搭載するのは、2.0ℓ直4DOHCターボ。
現行のA250が搭載するのはM270-M20型2.0ℓ直4DOHCターボ。
160kW/350Nmに対して新型のM260型は
165kW/350Nm。
旧型からの出力アップはわずか。こちらはパワーアップよりも燃費対応か。
M260型はアルミ合金ブロックに鋳鉄シリンダーライナーを鋳込んだエンジン。CONISCHAPEとよぶ”トランペット・ホーニング”を施している。燃費のためにピストンのフリクションを低減した。
M260型は、CAMTRONICを搭載する。CAMTRONICは、可変バルブタイミング&リフト機構で、バルブリフトはハイ/ローに切り替わる。
インジェクターは、最新世代のピエゾ式。こちらも、標準でGPFを装備する。
4気筒だが、ターボチャージャーはシングルスクロールターボだ。ウェイストゲートバルブは、前型がバキューム式だったに対して電制式になった。
2.0ℓ直列4気筒DOHCターボ
エンジン型式:M260型
排気量:1991cc
ボア×ストローク:83.0×92.0mm
ボア/ストローク比:1.1
ボアピッチ:90.0mm
圧縮比:10.5
バルブ数:4/シリンダー
最高出力:165kW(224ps)/5500rpm
最大トルク:350Nm/1800-4000rpm
リッター当たり出力:83kW/ℓ
ターボ:シングルスクロールターボ。
A180dに搭載するエントリーレベルのディーゼルエンジンも刷新された。
OM607型という1.5ℓ直4ディーゼルターボだ。エミッションはEURO 6dに対応。RDEにも対応する。
ターボは、エキゾーストマニフォールドに一体化されたVGターボ(可変ジオメトリーターボ、メルセデス・ベンツは可変タービンジオメトリー=Variable Tubine Geometryと呼ぶ)を採用。タービンのジオメトリーを変えるのは電動アクチュエーターが受け持つ。
インテークマニフォールドも一体化されるシリンダーヘッドはアルミ合金製。燃料の噴射圧は前型が1600barだったのに対して、ソレノイド式インジェクターで2000bar(20MPa)まで上げている。噴孔数は8。1回の燃焼で最大6回噴射する。
シリンダーブロックは鋳鉄製だが、剛性を上げつつ軽量化している。ピストンは前型と同じくスチール製。
排気後処理では酸化触媒、AdBlueによる尿素SCR、そしてDPFを装着する。AdBlueのタンク容量は23.8ℓと大容量だ。
このOM608もルノーの協力によって開発された。
3つのエンジンのうち、1.3ℓガソリンと1.5ℓのディーゼルは、開発でルノーがかなり大きな力を発揮したのではないだろうか?
ちなみに、ルノーの1.5ℓディーゼルのK9K dCi75.90.110の、ボア×ストロークはM608と同一。鋳鉄ブロックだ。OM608はK9Kをベースにしていると考えられるかもしれない。
VWのディーゼルゲートで、欧州はディーゼルはそろそろ終わり、という声もあった。排気後処理のコストを考えると、Cセグでディーゼルは厳しくなるのでは、と考える人もいたが、ダイムラー&ルノーは、1.5ℓのディーゼルを新規に投入してきた。やはりまだまだディーゼルの活躍する余地は残されているのだろうか?
1.5ℓ直列4気筒DOHCディーゼルターボ
エンジン型式:M608型
排気量:1461cc
ボア×ストローク:76.0×80.5mm
ボア/ストローク比:1.05
ボアピッチ:85.0mm
圧縮比:15.1
バルブ数:4/シリンダー
最高出力:85kW(116ps)/4000rpm
最大トルク:260Nm/1750-2500rpm
リッター当たり出力:58kW/ℓ
ターボ:シングルスクロールターボ。