マツダが昨年9月14日に発表、12月14日より販売開始した3列6~7人乗りクロスオーバーSUV「CX-8」の販売が、極めて好調に推移している。




マツダの発表によれば、12月14日に販売開始するまでの3ヵ月間に得た受注台数は7,362台。その後、実車の試乗が可能になった1ヵ月間でさらに受注を伸ばし、今年1月15日までの累計受注台数は12,042台に達している。




マツダではCX-8の月間販売計画台数を1,200台に設定しているため、その3倍以上を受注した現状はマツダの想定を超えた状況といえるだろう。

問1:CX-8はミニバンの代替となりうるか?

マツダMPV
マツダ・ビアンテ


マツダ・プレマシー

CX-8は国内市場向けSUVの最上位モデルであると同時に、3列シートを備え6~7人乗りが可能な、MPVやビアンテ、プレマシーといった従来のミニバンに代わる存在として開発された。

マツダCX-9
マツダCX-5


CX-8はBピラー以前の内外装をCX-5と共用しつつ、プラットフォームは北米専売のラージサイズクロスオーバーSUV「CX-9」をベースとして、日本の道路・駐車環境に合わせて全長を5,065mmから4,900mm、全幅を1,969mmからCX-5と同じ1,840mm、全高を1,753mmから1,730mmに小型化している。ホイールベースは2,930mmで、CX-9と共通だ。

マツダCX-8の空間設計の考え方

その中でCX-8は、マツダのクルマづくりの基盤である「人間中心の設計思想」のもと、3列全ての乗員が上質さと心地良さを感じられるようパッケージングを構築。




1列目は「誰もがマツダ車共通の価値である理想的なドライビングポジションを取れる」こと、2列目は「ワイドな横幅とロングスライドシートを持ったシートにより大柄な大人がゆとりを持ってくつろげる空間とする」こと、3列目は「身長170cmの乗員でも無理なく、快適に過ごせる空間とする」ことを目標に設計されている。




では実際に、CX-8はマツダの狙い通り、ミニバンの代替となりうるパッケージングを実現できているのだろうか?

フロントシートはサイズ・調整しろ、各部のクリアランスとも余裕があり、小柄な女性から大柄な男性まで誰でも適切なポジションが取れる

結論から言えば、“乗降性を除けば”ヒンジドア式の低全高ミニバンに匹敵するパッケージングを備えている。




身長163cm、さらに撮影時はハイヒールを履き170cmと、3列目の想定設計にピッタリの長身を持つ、モーターファン・イラストレーテッド編集部の生江凪子さんに各席の乗降性と居住性を試してもらったが、想定身長189cm・ヒップポイント700mm・ヘッドルーム1,011mmの1列目は、フロアが低くヘッドクリアランスにも余裕があるため何ら苦もなく乗り降りできる。

セカンドシートへの乗降にはやや労力を要するが、ひとたび座ればそこは特等席

だが、想定身長186cm・ヒップポイント760mm・ヘッドルーム975mmの2列目は、足元のフロアも1列目より高く設計されている(地上高は未公表)ため、乗り込む際にはより大きく足を上げて上半身を屈める必要がある。ただし一度乗り込めばレッグルームは1,070mmと広く、シートもタイプを問わず1列目と同等以上のサイズ・ホールド性を備えている。多くの高級ミニバンがそうであるように、CX-8もまた2列目が特等席といえそうだ。

「XD Lパッケージ」専用のキャプテンシート&アームレスト付きコンソールボックス

なお、CX-8には3種類のセカンドシートが設定されており、最上級グレード「XD Lパッケージ」にはアームレスト付きコンソールボックスを備えたキャプテンシートを標準装備。廉価グレード「XD」および中間グレード「XDプロアクティブ」には、角度調整機構付きアームレストを備えセンターウォークスルーを可能にしたキャプテンシートと、7人乗りに対応するセンターアームレスト付き6:4分割可倒式ベンチシートが設定されている。




だが、シートそのものは、背もたれの角度調節がキャプテンシートで22~42度、ベンチシートで22~30度となる以外は、3タイプともほとんど差がない。前後スライド量はいずれも120mmでウォークイン機構を備え、背もたれを前倒しすればほぼフラットな荷室となる、という機能面も同等レベルだ。




贅沢な雰囲気を味わえるという点では言うまでもなく「XD Lパッケージ」のキャプテンシート&アームレスト付きコンソールボックスなのだが、センターウォークスルーができず、乗車定員も6人までと、実用性は最も低い。

センターウォークスルーが可能なキャプテンシート&角度調整機構付きアームレスト
7人乗車が可能となるセンターアームレスト付き6:4分割可倒式ベンチシート


同じキャプテンシートでも角度調整機構付きアームレストを持つタイプであれば、チャイルドシートを左右両方に取り付けてもなお3列目へアクセスできるため、6歳以下の子供が2人いるファミリーならば、この仕様がベストとなる。親子孫三世代またはスポーツチームなどで7人乗車に迫られることがある場合は、ベンチシート一択だろう。

2列目をウォークインさせ3列目へ乗り込むには足を大きく上げる必要がある

そして、CX-8のアイデンティティともいえる、想定身長170cm・ヒップポイント786mm・ヘッドルーム885mmの3列目は、2列目よりも大幅に高まったフロア高のおかげで、高身長の生江さんでも足を大きく上げて乗り込まねばならず、決してアクセスは容易ではない。




ヒンジドア式の低全高ミニバンも大半のクルマは3列目へのアクセス性が良くないが、CX-8はSUVらしく高い最低地上高(200mm)に、後ろの席ほどフロアとヒップポイントが高いスタジアムシートが相まって、小柄な高齢の女性にはミニバン以上に乗車が困難となっている。

マツダ開発陣の狙い通り「身長170cmの乗員でも無理なく快適に過ごせる」サードシート

だが、こちらもひとたび乗り込むと、ハイヒールを履いた生江さんで「問題ない広さ」。身長174cmの筆者では、正しい姿勢で座るとバックドア上端に後頭部が当たるものの、やや姿勢を崩せば短時間なら乗車可能だ。

3列とも使用した状態のラゲッジルーム
3列目を倒した状態のラゲッジルーム


2列目・3列目とも倒した状態のラゲッジルーム
荷室床下のサブトランク。パンク修理キットが収納されている


ラゲッジルームは、3列とも使用している時でもゴルフバッグ2個を積載できる239L、3列目を倒した際は67型スーツケース3個を積載できる572Lの容量を確保。2列目も倒せば自転車2台を収納することができる。また、荷室床下には深さ307mmのサブトランクを備えているため、日常の買い物で荷物の置き場所に困ることはまずないだろう。

問2:CX-8のベストバイはFF? それとも4WD? グレードは?

マツダCX-8のフロントまわり

パッケージングを一通りチェックしたところで、まずは4WD車から試乗する。グレードは最上級モデルの「XD Lパッケージ」だ。

マツダCX-8のリヤまわり

前述の通り、CX-8はBピラー以前の内外装をCX-5と共用しているものの、フロントグリルはCX-5のスポーティなピアノブラックのメッシュに対し、CX-8はメッキの入った横格子となり落ち着いた印象に。リヤもCX-9のコンビランプを使用しその間をメッキモールでつなぐなど、ワイド感を強調したデザインとなっている。

マツダCX-8のサイドビュー

そして全長が355mm、ホイールベースが230mm長くなったことで、CX-8のサイドビューにはCX-5にはない伸びやかさがある。しかも全高を40mm高め3列目まで充分な居住空間を持たせるという制約の中でこのモダンかつスタイリッシュな、裏を返せばミニバンのような所帯臭さを感じさせないフォルムを実現したのは見事と言うより他にない。

本杢パネルを装着した「XD Lパッケージ」の運転席まわり

センターコンソールの形状が変更され、さらに本杢(ほんもく)を用いた「XD Lパッケージ」専用のデコレーションパネルを装着するインパネは、基本設計を同じくするCX-5よりも質感が確実に1ランクアップしている。

1列目上部に装着されるルームランプ

だが、3,196,800~4,190,400円のプライスタグを掲げるCX-8では、2,494,800~3,526,200円のCX-5では気にならなかった、ダッシュパネル天面やルームランプ周りのプラスチック然とした質感が目についてしまう。全体的には内外装のデザイン・質感とも、2倍以上高価なプレミアムブランドのSUVに勝るとも劣らないCX-8だけに、画竜点睛を欠く……と言っては大袈裟だが、より完璧な仕上がりを求めずにはいられない。

大幅に改良された「スカイアクティブ-D 2.2」

その一方、CX-8唯一のエンジンとなる2.2L直4直噴ディーゼル「スカイアクティブ-D 2.2」は、始動したその瞬間、ディーゼルエンジンとは思えないほど静粛性が高いことにまず驚かされる。




これは、少量の燃料を多段かつ高圧で微細分霧化して噴射する「急速多段燃焼」を採用し、燃焼そのものを見直したことが大きい。

(詳細は「マツダCX-8 デンソーi-ARTインジェクターと急速多段燃焼で洗練度を上げたSKYACTIV-D2.2」)

ボディ側でも、フロントストラットにダイナミックダンパーを設けてサスペンションの共振を抑え、リヤフェンダーパネルに制振材を貼付してロードノイズを低減するなど、1・2・3列目問わず入念にNVH対策が施されているが、窓を開けてもアイドリング中・走行中問わずノック音が極めて小さい。そのことから、対処療法ではなくその発生源から改善されていることがうかがえた。




また、大小2個のうち大きい方のタービンを可変ジオメトリー化したターボチャージャーを採用することで、CX-5用に対し最高出力を15psアップの190ps、最大トルクを3.1kgmアップの45.9kgmにまで高めつつ、JC08モード燃費17.6km/L(4WD車は17.0km/L)を確保しているが、「XD Lパッケージ」4WD車の1,900kgという車重にはちょうどいいパフォーマンス。




過去に「スカイアクティブ-D 2.2」を搭載したモデル、特に最も軽量なアクセラでは、その過剰なまでの大トルクが、楽しさの源泉であると同時に手強さを感じさせていたが、ようやくその能力に見合った車体と組み合わされたといえるだろう。

マツダCX-8・4WD車のシャシー

この「ちょうどいい」感覚はハンドリングもまた然り。全長とホイールベースの増加によってCX-5に対し直進安定性が増す一方、CX-5と同等の操舵レスポンスを得るために、CX-9のものをベースとしながらボディ・サスペンション・ステアリングの剛性を高めている。




さらに、横力キャンセルコイルスプリングを装着し、フロントダンパーにはリバウンドスプリングを採用。ステアリング操作に応じてエンジントルクを変化させ前後左右Gを制御する「G-ベクタリングコントロール」のチューニングも変更することで、速度域を問わずリニアで安心感のあるステアフィールを備えている。




これらの改良は、前後・左右の不快な揺れを抑えることで、乗り心地の向上にも効果を発揮しており、運転席はもちろん特等席の2列目、そして最も厳しい環境下にある3列目でも振動や突き上げは極めて少ない。凹凸の大きい路面でも終始フラットライドを維持してくれた。

マツダCX-8「XDプロアクティブ」FF車

しかしながら、中間グレード「XDプロアクティブ」のFF車・キャプテンシート仕様に乗り換えると、その印象は一変する。




今回の試乗車はいずれも225/55R19 99Vのトーヨー・プロクセスR46を装着していたが、4WD車は2インチ小さい225/65R17 102Hタイヤを履いていたのではないかと思えるほど、FF車は路面の凹凸を正直に拾い、それをフロアの振動という形で各列の乗員に伝えてきた。

マツダCX-8・FF車のシャシー

なお、マツダに確認したところ、サスペンションのセッティングはFF車と4WD車で共通。従って異なるのはリヤのフロアおよびサブフレーム、そして4WD車より90kg軽い1,810kgの車重(注:同グレード・シート・タイヤ同士では70kgの差)ということになる。




単純に車重が軽い分、加速およびコーナリング時の軽快感はFF車の方が優れるものの、前輪スリップ予兆検知システムを持つ「i-アクティブAWD」のおかげもあり、4WD車の方が直進安定性は高くアンダーステアも出にくい。シャシーセッティングの完成度は明らかに4WD車の方が高く、また多人数乗車が可能な高級クロスオーバーSUVというCX-8のキャラクターにもよりマッチしているように感じられた。

結論:ミニバン代替としての素質は充分。ベストバイは「XDプロアクティブ」4WD車・キャプテンシート仕様

結論に入ろう。CX-8は乗降性こそミニバンに敵わないものの居住性は充分に高く、一方で内外装とその質感は乗降性のマイナスを補って余りあるほど魅力的だ。それは、購買層の40%を30代以下が占め、「多人数乗車を可能としながら、かっこよさを感じる」ことを購買理由の一つに挙げているというデータが何よりの証拠だろう。




そして、3つのグレード・2つの駆動方式・3種類の2列目シートが選べる中でのベストバイは、中間グレード「XDプロアクティブ」の4WD車・キャプテンシート&角度調整機構付きアームレスト仕様だ。特にミニバンから乗り換えるユーザー、またミニバンと同等のユーティリティを必要とする若いファミリーならば、これ以外の選択肢はないと断言していい。




なお、廉価グレード「XD」をオススメしないのは、ACCやレーンキープアシスト、360°ビューモニターなどの予防安全装備がオプションまたは非設定、というのが大きな理由。実際の販売比率も「XD Lパッケージ」が42%、「XDプロアクティブ」が52%、「XD」が6%となっている。




ただし筆者のように、ブラック内装が大嫌いで絶対に選びたくない、という人はこの限りではない。ピュアホワイトまたはディープレッドのナッパレザー内装が選べる「XD Lパッケージ」が唯一の選択肢となる。




現在のマツダ車はCX-8に限らず、内外装のカラーバリエーションが非常に少ない(CX-8は外装色7色、内装色3色)。特に内装はデミオを除き、ファブリック仕様は黒一択、本革仕様でも黒または白(あるいはブラウン)の二択だ。こうした偏屈なまでのデザイナー陣のこだわりは、車種選択において強い決定権を持つ女性ユーザーのニーズに合わせ、他社がカラーバリエーションを充実させているのとは明らかに逆行している。




近年のマツダ車の内外装デザインは本当に素晴らしい。ソウルレッドプレミアム(クリスタル)メタリックやマシーングレーメタリックのような、人目を引くカラークリヤー色をいち早く量産化し多くのフォロアーを生み出したのもマツダだ。それでも、いやだからこそ、内外装のカラーバリエーションをもっと充実させてほしい。それこそがCX-8、そして現在のマツダに抱く最大の不満であり、最優先で着手すべき今後の商品改良策である。

Specifications


マツダCX-8 XD Lパッケージ(4WD)


全長×全幅×全高:4,900×1,840×1,730mm ホイールベース:2,930mm 車両重量:1,900kg エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ 排気量:2,188cc ボア×ストローク:86.0×94.2mm 圧縮比:14.4 最高出力:140kW(190ps)/4,500rpm 最大トルク:450Nm(45.9kgm)/2,000rpm JC08モード燃費:17.6km/L 車両価格:419万400円
Specifications


マツダCX-8 XDプロアクティブ(FF・6人乗り)


全長×全幅×全高:4,900×1,840×1,730mm ホイールベース:2,930mm 車両重量:1,810kg エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ 排気量:2,188cc ボア×ストローク:86.0×94.2mm 圧縮比:14.4 最高出力:140kW(190ps)/4,500rpm 最大トルク:450Nm(45.9kgm)/2,000rpm JC08モード燃費:17.6km/L 車両価格:353万7000円
情報提供元: MotorFan
記事名:「 【マツダCX-8試乗・FFvs4WD】ミニバンから乗り換えるなら「XDプロアクティブ」4WD車・キャプテンシート&角度調整機構付きアームレスト仕様で決まり!