安曇野と飛騨高山を結ぶ交通の要衝であり、
今でこそトンネルの完成によってものの5分で抜けられるようになったが、
かつては狭隘かつ急峻な山岳路しかなく峠越えには大変な労苦を伴い、
行楽シーズンには10時間近くかかることもあったという。
マツダ・ロードスターで孟冬の飛騨山脈を駆け抜ける。
TEXT:小泉建治(KOIZUMI Kenji)PHOTO:平野陽(HIRANO Akio)
絵に描いたような旧道
いきなり濃度マックス!
長野自動車道の松本インターチェンジを降り、国道158号線を西へと向かう。松本電鉄上高地線と並行に走っているうちはいわゆる市街地に過ぎず、沿道も賑わっているが、終点の新島々駅を過ぎ、梓湖にさしかかる辺りから景色は山深くなり、にわかに秘境感が増してくる。
とはいえ平日でも交通量は多く、酷道険道らしい物寂しさはまだ感じられない。国道158号線は松本市と高山市を結ぶ交通の要であり、乗用車はもちろん大型バスや大型トラックも頻繁に行き来している。上高地や乗鞍といった名だたる観光地を擁し、しかもそれらにマイカー規制が敷かれていることも大型バスが多い理由だろう。
余談だが、この梓湖のあたりの国道158号線は、天気を問わず来るたびにいつも路面が濡れているような気がする。もしかしたら自分が通る直前に雨が降っていたのかもしれないが、それが毎回繰り返されていたとも思えない。
トンネルから湧き水や雨水が沁み出しているのか。とにかく、自車と前走車が跳ね上げたしぶきでウィンドウやボディの下半分くらいが汚れまくる。出発前にはウォッシャー液の残量にもご注意を。
雄大な北アルプスを一望
安房峠の次は平湯峠へ
安房峠から20分ほどで平湯温泉に到着し、安房トンネルを抜けてきた新道と合流する。平湯は古くから奥飛騨エリア有数の温泉として知られてきたが、上高地や乗鞍にマイカー規制が敷かれてからは、ここにクルマを駐め、観光バスやタクシーに乗り換えるというスタイルが確立したため、交通の要衝と役目も担うことになり、より一層の賑わいを見せるようになった。ただし残念ながら「湯ったり飲んびり」な旅は当ページの主旨にそぐわないので先を急ぐ。
しばらく国道158号線を西に走ると、今度は県道485号線との分岐点が現れる。まっすぐ行けば平湯トンネルだが、左に曲がれば例によって旧道である。交差点から覗き見るだけでも木々がうっそうとしているのがわかり、なかなかここを左折しようという気にはならないだろう。
だが、安房峠の旧道を走ってきた猛者なら心配ご無用だ。比較論に過ぎないが、あちらほど急峻でも狭隘でもなく、見通しのいいコーナーも多い。それに、この県道485号線は、一応は乗鞍スカイラインへのアクセス路のひとつにもなっているのだ。
とはいえ乗鞍スカイラインはマイカー乗り入れ禁止だし、入口付近まで行ったところで、そこからバスやタクシーに乗るのは難しい。そしてバスやタクシーは平湯トンネルの西側からアプローチすることが多いようだから、いずれにせよこの県道485号線は交通量が少なく、存分に酷道険道ムードを味わえるのだ。
走行ペースに影響を与える度合いは、道幅やコーナーの曲率よりも見通しの良否のほうが大きいかもしれない。安房峠よりも心なしかアクセルの踏み込み量が大きくなり、コーナー手前ではヒールアンドトーを駆使しながらシフトダウン……助手席のカメラマンから「いいねぇロードスター」の声が挙がる。
今回の伴侶に選ばれたロードスターは、最もベーシックな「S」というグレードで、LSDもリヤスタビライザーもアンダーフロアの補強ブレースも備わらない。ただ、結局のところ自分がいま走っているのは一般道であって、出せるスピードにも限度がある。そんな状況のなかでは、素のロードスターならではのわかりやすい挙動がとてつもなく快感だ。
もちろん、けっして上級グレードの高いパフォーマンスがサーキットでなければ活かせないわけではなく、一般道でもソリッドな乗り味に酔いしれることはできるはずだ。ようするに、それぞれに楽しみ方があって、優劣ではなく個性だということである。
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時は金なり───だからこそ時間を掛ける贅沢を楽しむ
マツダ・ロードスターS
▶全長×全幅×全高:3915× 1735×1235mm ▶ホイールベ ース:2310mm
▶車両重量: 990kg ▶エンジン形式:直列4 気筒DOHC
▶総排気量:1496cc ▶ボア×ストローク:74.5× 85.8mm ▶圧縮比:13.0
▶最 高出力:96kW(131ps)/7000rpm 最大トルク:150Nm/4800rpm
▶トランスミッション:6速MT
▶サスペンション形式:Ⓕダブ ルウィッシュボーン Ⓡマルチリ ンク
▶ブレーキ:Ⓕベンチレ ーテッドディスク Ⓡディスク
▶タイヤサイズ:195/50R16 ▶ 車両価格:249万4800円
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