ということだ。利根川を越えてしばらくの間、車窓を流れる風景に山らしい山は見えない。前方左手に筑波山が見えてくるまで、空の広さを十二分に堪能し、早くも目的のひとつを叶えることができたのだ。
それに今回の旅の足「エアーズロック・チャムスエディション」は、キャンピングカー専用に設計された車両ではなく、バン、ミニバス、トラックといった様々な用途に使われているフィアット・デュカトがベースだ。ヨーロッパの街中では、配達などに使われている姿をよく目にすることができる。取り回しがよく、大きな窓やミラーのおかげで良好な視界を確保している。そんなデュカトをベースにして、ドイツの人気ビルダーのHYMER(ハイマー)社が手がけたキャンピングカーである。
2・3ℓディーゼルターボエンジンはパワーもトルクも申し分なく、重量のあるキャンピングカーながら高速走行も楽にこなしてくれた。しかも右ハンドル仕様なので、ストレスは一切感じることがなかった。それどころか、少し高い視点から眺められた関東平野の風景は、格別なものに感じられたのだ。
そんなクルマで快適なクルージングを楽しんでいると、那珂(なか)インターが近づいて来た。ここからは国道118号線で大子町を目指す。キャンプ場へ向かう前に、まずは国道118号線と久慈川(くじがわ)に挟まれた場所にある「道の駅 常陸大宮かわプラザ」に立ち寄ることにした。ここは「自然とふれあえる施設づくり」を目指した施設で、地元のJAと協力し、近隣を中心に150種を超える新鮮な野菜などを販売しているのだ。
道の駅で夕食と翌日の朝食の食材、それに男二人の口を滑らかにする地酒を買おうと提案してきたのは息子であった。食材の品数に関してはスーパーマーケットの方が多いだろうが、旅心をくすぐられるといった点では道の駅に軍配が上がる。ついつい屋台で売られていた鮎の塩焼きにまで手を延ばしてしまった。
必要な食糧などはだいたい揃ったので、後はキャンプ場を目指すだけなのだが、ここでまた寄り道の誘惑
に負けてしまう。常陸秋そばの幟旗を素通りできなかったのだ。もともと「男二人で旅をする」という事以外、特に目的はなかったので、すぐさま古民家風のそば屋の暖簾をくぐることに決まった。
こうして寄り道を繰り返したため、グリンヴィラに到着したのは夕方になってしまった。秋の夕暮れは早いので、テント泊のキャンプでは準備している最中に真っ暗になってしまっただろう。だがAC電源付きのキャンピングカーサイトを予約したため、クルマを駐車さえすればキャンプサイトはほぼ完成。あとはレンタルしたテーブル&チェア、焚き火台などをセットするだけだ。
日常生活では味わえない自然や仲間たちとの一体感を楽しむ。それがキャンプの醍醐味。だが今回の旅の目的は、男二人で気ままに行動することと、できるだけ多くの会話を愉しむことが第一だ。準備や後片付けの手間を省いてくれたキャンピングカーが、その目的を最大限にサポートしてくれたことは間違いない。
素早く焚き火台で火を熾すと、道の駅で手に入れた新鮮な野菜や加工肉などをテーブルに並べる。それに
酒があれば十分と感じてしまうのも、キャンプの夜ならでは。食べきれないほどの料理が並ぶ旅館と違い、ここでは会話も最高のご馳走になるのだ。時間はたっぷりある。ということで、その夜は久しぶりに息子との会話を大いに愉しんだ。細かな内容までは忘れてしまったが……。