TEXT:古庄速人
ーそれでは、現在進めている「光による生命感の表現」の具体的な内容について聞かせてください。どちらも、鋭く明快なキャラクターラインは持たず、ボディサイドのうねるようなリフレクションが特徴です。
前田:魁CONCEPTはRX-VISIONの流れを汲んだものです。RX-VISIONをモチーフに、コンパクトクラスの5ドアハッチバックにぎゅっと凝縮して盛り込んでみたらこうなった、というものです。
ー魁CONCEPTでは、Cピラーとリヤフェンダーの面に衝撃を受けました。ルーフからホイールアーチまでがひとつの大きな面で、しかも凹面。見たことのない造形手法で、美しさを表現しようとしていることに驚きました。
前田:すごく苦労したんですよ。ただ、ああいう難しい造形をこなしてゆけるのが、マツダの強みになっています。ゼブラチェック(CADの造形データに縞模様を貼り付け、面の歪みをチェックする機能)で違和感を覚えた部分を修正してゆくと、絶対にああいう形はできません。違和感は残ってもいいと指示を出します。もちろん必要な部分は修正や整理をしますが、重要なモチーフだったり味わいになっている部分は極力そのまま残す。そういう采配をしました。
ーそれで破綻していないというのが見事です。大胆な凹面やキャラクターラインに頼らないということを徹底させている。しかしこれを量産モデルでやろうとすると、生産現場からは難しすぎると不満も出そうですね。
前田:これはVISION COUPEでの話ですが、実は社長に見せるより先に、生産に関わるメンバーのほとんどに見せたんです。彼らに素晴らしいものだということを感じてもらい、一緒に「いいねえ!」と感情を共有できるミーティングを設定したんです。
ー経営陣からのトップダウンではなく、指示が出るより先に現場レベルでブランドのメッセージを共有しようとしたんですか?
前田:はい。すると純粋な人が多いので本当に感動してくれて、VISION COUPEをそのまま生産するわけではないのに、これを作る前提で話をしてくるんです。ただ最初は「ああ、いいねえ!」と始まったんですが、はたと我に返って、車両に近づいていって頭を抱えはじめ、「ここは一体どうすればいいんだろう?」という会話があちこちから聞こえてきた。明確なキャラクターラインがないから、それぞれのボディパネルをピッタリ合わせるのが大変だ、と。近くで見ても正しいのかズレてるのか、ズレているとしてもどこがどれだけズレているのかを判断できないんです。
ーそれでも、解決できるアイデアが出された?
前田:これだけデリケートな面をどうプレスし、どう組み立てるか。現場ではノウハウを一所懸命積み上げてくれているところです。上から指示が降りてきたからやるというのではなく、現場が自分たちで問題を解決しようとする。こういう動きをしてくれるのがマツダの特徴ですね。
前田:2年前のRX-VISIONと今回のVISION COUPE。この将来ビジョンを提示した2台が「ブックエンド」になります。
ーなるほど。そのブックエンドの間に、今後登場するラインアップのデザインがある。そしてそれをある程度、具体的に示したのが魁CONCEPTだと言っていいんですね。
前田:そうです。何事も二巡目って大変なんですよ。守らなければいけない部分と、変わっていかなければいけない部分、この配分を間違えると大変なことになってしまう。魂動デザインの二巡目としてのバランス取り。これは相当考えて戦略を立てています。プレッシャーはすごいですよ。
ー今後は魂動デザインとして守る部分と変えてゆく部分が、しだいにはっきりしてゆくことになるわけですね。
前田:そうですね。それから、今はまだ直球しか投げていない状態ですが、途中ではちょっとした変化球を投げなければいけませんね。テーマの発展可能性なども見せる必要もありますから。だからまだまだ休んじゃダメということですね。魂動デザインのフィロソフィは不変でも、その表現手法は他にももっといろいろあるはず。これからもどんどん探してゆきます。