「ヤマハには『人機官能』という独自の開発思想があります。人と機械をシンクロさせることで自在に操れる悦びを味わえたり、興奮を作り出す技術です。そのシンクロの次元をもっと高度なものにできないかと検証する実験機がこのモトロイドなんです」
いままでのバイクは人が主体で、操作の大半を人がやってきた。だからこそバイクの運転は難しいし、意のままに操れたときは楽しい。だが反面、人はミスをする。そのミスを機械がカバーしてくれるなら、バイクという乗り物はまた一歩人に寄り添うモビリティになりえるはずだ、ということなのだろう。
プレスカンファレンス時、ステージに上がった柳 弘之社長はモトロイドとモトボットを披露する際に「ふたりのロボットを紹介します」と我々に言った。つまり、ロボットと言えども人格化した機械ととらえているのだ。事実、柳社長に“Come on”と呼ばれたモトロイドは、サイドスタンドで静止していた状態から垂直に起き上がり、スタンドを自ら払って車体に納めると、数メートル先にいた柳社長のもとにひとりで移動したのである。さらに横に押されても、自らバランスを取って倒れない。ホンダのライディングアシストも似たような動画を作っていたし、「人と機械の溝を埋める」「人と機械を高度な次元でシンクロさせる」とそれぞれ言い回しは違えど、目指す先は同じかもしれない。
もちろん個別具体的な技術は違う。自立するためのバランス取りひとつをとっても、ホンダのライディングアシストはトレール長を変えながらステアリング操作することで立ち続けるのに対し、モトロイドは車体センターにある筒がロール軸となって左右それぞれにある3本のバッテリーが重り・振り子となってバランスを取っている。その振り幅、角度はまだ内緒だと前園氏は言う。
さて、このモトロイド、よく観察してみると、ライダーが乗って擦れた跡が車体の所々にあるのだ。「置き物としての単なるショーモデルではありません。ちゃんと走っています」とは前園氏の弁。なるほど、前後タイヤともトレッドの端までイッチョ前に溶けているではないか。「これはなかなかヤリますね」とタイヤネタを前園氏に振ってみるも、この会話は煙に巻かれた。曰く、パワーユニットの出力や走行速度が分かってしまうからだという。前後ホイールは3Dプリンターで作ったカーボン製。前後でホイールデザインが違うのは、フロントは空力上、リアはモーター部の冷却を考えた上でのハニカムデザインとなっている。
ちなみに、3本のバッテリー前方部に記されている「03」が意味するのは、ここに至るまでに原理試作機が1号、2号とあったらしく、現在3号機目ということらしい。また「03」の下にあるのは本物のQRコードで、ケータイ等で読み取ればモトロイドのデザインサイトに飛べるとのことだ。
余談だが、冒頭に紹介したリリースに出てくる「共響」とはヤマハの造語で、「きょうめい」と読むとのこと。今回のモーターショーのテーマが「響きあう未来へ。」ということから来ているらしいが、なんだかヤマハのスピードに付いていけない自分がいて、なおいっそう頭がパンクしそうになっている……。