“インバーター”と聞いてエアコンなどの家電製品を思い浮かべる人も多いだろう。聞きなれた名前ではあるが、実はこの装置の役目は直流から交流を作り出すことで、現代のEV/HEVの制御においても非常に重要な役目を果たしている


(TEXT:髙橋一平)

発電所から我々のもとに届く電気には、作りやすさや、送電時に電圧を上げて効率を高くできることから、交流(AC=Alternating Current)が用いられていることはご存じの通り。現代の一般的な社会環境において、交流はいわば“出来たての電気”ともいえるわけだが、我々の周りには、直流(DC=Direct Current)を必要とする機器も数多い。そこで、必要に応じて交流から直流に変換するコンバーター(変換器)が用いられる。携帯の充電などで使われるACアダプタが良い例だ。つまり、最初に交流ありきで、そこから直流に変換するという流れが一般的になっているわけだが、この流れとは逆に、直流から交流に戻すという逆方向の変換を行なうものがインバーター(Inverter=逆にするもの)だ。




交流から直流に変換するコンバーターが、基本的に電気の方向を揃える(整流する)だけなのに対し、インバーターは少々複雑なものになる。直流から交流への変換は、プラスとマイナスの極性はそのままに静かに流れる直流に対し、極性が常に入れ換わるというアクティブな状態を作り加える必要があるからだ。しかし逆の見方をすれば、さまざまな状態、つまり周波数の交流を作り出せるということで、特に交流(AC)同期モーターとの組み合わせではきめ細かい回転数制御が可能となる。そして、この特徴は幅広い回転域でモーターを運転することが要求される自動車にはなくてはならないもので、耐久性に優れる交流同期モーターならではの素性と相まって、現在のEVやHEVを支える主幹技術のひとつとなっている。

インバーターを構成する最も基本的な回路。左右の図を比較すると、対角に配置するスイッチをONにする2通りのパターンにより、中央のコイルに流れる電流の向きが変わることがわかる。スイッチに並列で配置されるダイオードは、スイッチを切った後も流れようとする電流を回路内に還流するよう導き、スイッチ(トランジスタ)を保護するためのもので、“フリーホイールダイオード”と呼ばれる。

交流の疑似波形   IGBTのスイッチング動作だけでは、滑らかなサインカーブを描く交流曲線を再現することはできない。そこで用いられる最も一般的な手法がPWMによって交流の疑似波形を生成するというもの。1秒間に数万回のスイッチングが可能なIGBTをコンピューターで制御することによって、印加される交流の周波数で回転数が決まる交流同期モーターを、スムーズかつ確実にコントロールすることができる。

ちなみに、説明のためにインバーターの構造を簡略化すると、上のページに示すような“Hブリッジ”と呼ばれる回路になるわけだが、これで極性の入れ換えは出来ても、オンとオフしかないスイッチでは、交流の曲線を表現することはできない。そこで超高速で小刻みにスイッチングすることにより、単位時間あたりの電流量で交流の曲線に相当する出力を得るPWM(Pulse Width Modulation)という手法が主に用いられている。




そして、この動作を可能にするのが超高速のスイッチング特性と、耐高電圧性を持つパワートランジスタ(半導体)のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)。1秒間に数万回ものスイッチングを実現するIGBTと、超高速の制御が可能なマイクロコンピューターとの組み合わせによるインバーター技術なしに、現代のEV/HEV は語れないのである。実際のEV/HEVでは、Hブリッジを拡張した三相インバーターが使用されている。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 EV基礎講座 新型リーフ、電気自動車のキモ、インバーターってなにするの?