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モデル末期を迎えてなお、軽自動車販売台数でトップを走っていたN-BOXが3世代目へと進化した。初代から2代目のモデルチェンジはエンジンとプラットフォームという主要メカニズムを刷新するという大規模なものだったが、今回のモデルチェンジはかなり控えめ。エンジンは自然吸気エンジンのトルクをわずかに引き上げたのみで、ターボエンジンに変更はなし。ボディ関係も、材料の見直しで側面衝突性能を引き上げた他は、サスペンションのセッティング、タイヤ銘柄も含めて変更は加えられていない。これはもう、ビッグマイナーチェンジと呼びたくなるような内容である。
とはいえ、ホンダが手抜きをしたかといえば、決してそんなことはない。モデルチェンジとは商品力を引き上げるための手段であって、それ自体が目的ではない。売れているものをわざわざ否定する必要はないし、ハードウェア性能の面でも、とくに大きく変える必要がなかった、と考えるのが自然だろう。それほどまでに先代N-BOXはよくできたクルマだったということだ。ホンダはこれまで幾度となく「変えることが目的化」したモデルチェンジをして失敗してきた。だがN-BOXに関してはその心配をする必要はなさそうである。
そうはいっても、フルモデルチェンジだと主張するからには、あまりにも変わらなさすぎるのも問題だ。しかし、その点でも新型N-BOXの開発陣はうまいところを突いてきたなと感じた。まずは内外装だが、当然ながら最大の特徴である背高ボクシースタイルと広大な室内空間という基本に変化はない。ホンダの伝統であるMM思想(マンマキシマム・メカミニマム)は、この種のクルマに適用するとより一層光り輝く。
一方で、外観ではもっとも目に付く部分である顔を一新。ノーマルグレードである「N-BOX」はボディ同色のフロントグリルにドット状の穴をあけて親しみやすさと道具感を演出。一方「カスタム」はメッキのバーを配した大型グリルとすることで力強さを表現した。どちらも先代とは明らかに異なる表情に仕上げているため、「変わり映えしない」という不満の声はおそらく出てこないだろう。さらに、サイドの面形状はより上質になり、リアでは70㎜下げた開閉ハンドルが低重心感と使い勝手の向上を生みだしている。
インテリアで目に付くのがデジタル化されたメーターパネルだ。メーターそのものの視認性はアナログにも捨てがたい魅力があるが、デジタル化することで小型化を実現。フラットなメータークラスターとして有効活用している。メータークラスター部がやや盛り上がっていた先代と比べると、前方視界は明らかによくなっている。
主要メカニズムに大きな変化なはないが、乗ると大きな変化が生じていることに気付くのは面白い点だ。具体的には、より静かに、より直進性が高まり、より乗り心地がよくなっている。まずは静粛性だが、これはもう誰が乗っても気付くレベル。とくに先代オーナーが乗ったら軽く嫉妬を覚えるのではないだろうか。遮音材と吸音材の材質や配置、量を見直したのが効いている。
走りに関しても、タイヤだけでなくダンパーやスプリングのセッティングも変わっていないのになんで?と思うほどの違いがあった。開発者に聞くと、従来は宙づり状態でサスペンションを固定していたが、新型では地面に置いた状態で締め付けを行う方式に変更したという。これは「1G締め」と呼ばれる手法で、走りにこだわりのある人がチューニングとして愛車に施すことが多い。もし興味があるならググってみて欲しい。N-BOXは新車を生産する段階で1G締めをすることで、従来と同じサスペンションとタイヤを使いながらドライブフィールの向上を実現したということだ。加えて、電動パワーステアリングの制御を高度化することで、ステアリングフィールの滑らかさと正確性も向上した。こうしたスペックには表れない違いがドライブフィールに大きな影響を与えるのがクルマの面白さだ。言い換えると、設計のデジタル化がいかに進もうとも、経験値とか職人技とか、そういった人が介在する領域がいまだクルマの魅力の大きな部分を担っているのである。
エンジンは自然吸気とターボの2種類。自然吸気でも街中の交通の流れに乗る程度ならとくに不足はないが、上り勾配や高速道路ではターボの余裕の大きさが効いてくる。遠出をする機会が多い人にはターボをオススメする。だが、ターボが選べるのはカスタムのみ。先代の販売データから標準モデルへのターボ搭載は見送ったという。しかし、個人的には標準モデルのほうが好きなのでとても残念。これが少量生産車であれば贅沢は言えないが、N-BOXは日本でもっとも売れているクルマである。ケチケチしたことをせずに、様々なユーザーの要望に応えられるよう、しっかりと選択肢を用意しておくべきだと思う。
※記事の内容は2023年10月時点の情報で制作しています。