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自動車工場の現場というと、オートメーション化されたラインでほぼ機械によって組み立てられるイメージでしたが、天龍工業株式会社(以下天龍工業)で作られるシートは、そのほとんどが職人の手業(てわざ)によるもの。
日本で運行するバスの約98%のシートを開発する同社ですから、作業量も膨大になります。
実際、天龍工業の富山本社にある工場は、従業員約490人が勤務する規模の大きな施設。
今回はシート事業部工作グループ課長の清水康信さんに、シートが完成するまでの工程を案内していただきました。
1番はじめに案内されたエリアは部品職場と呼ばれる場所で、レーザーを使いプレス加工した鉄板からパーツを切り抜く作業を行なっています。
切り出されたパーツは機械で成形し、より精度の高い形へ。
決してひと目に触れる場所ではありませんが、このひとつひとつの部品がまるで芸術品のような輝きを放ちます。
ずらっと並んだ座席シートのフレームもこのパイプも、曲げ工程とよばれる作業で、1本ずつ人の手で成形されているというから驚き。
次に、パーツ同士を組み合わせて溶接する「溶接職場」へ。
これらは座席シートの脚部分ですね。少しずつですがシートの形に近づいてきました。
このあと「QAゲート」と呼ばれる場所で人の手と目による厳しいチェックを受け、合格したパーツだけが次の工程に進むことができます。
塗装職場へ流されるパーツは、塗装しやすいようにコンベアに吊るされます。
そして塗り終えたパーツは、傷がつかないようひとつひとつ丁寧に並べられます。
ここで一度組み立てのラインから離れて、シートに貼り合わせる生地を縫製する工場へ案内されました。
この円柱状のものがシートの生地。まるで丸めた絨毯のようです。
縫製職場にはこの生地がたくさん並び、天龍工業が造るシートの種類の多さを物語っています。
この大きな生地を自動裁断機の上に広げてセットすると、コンピュータにあらかじめ登録したバス毎のデータを元に自動でカットしてくれる仕組み。
この工程は最新式のシステムで処理されています。
カットされた生地はバスの車両毎にまとめられて次の工程へ。
切り出された束を見ていると、まるでミルフィーユのような美しさを感じます。
その後シートの形に縫い上げていく作業は、ハンドメイドなお仕事でした。
1枚1枚ミシンを使った手作業によって、シートの形になっていきます。
いよいよ完成に近づいてきました。最終工程の「組立職場」では、これまでの工程で作られた、座席のパーツにシート生地を張ります。
シートづくりで最も難しい、張りと呼ばれる作業です。
「背当て」にシート生地を張る工程では、3人の職人が手業のすべてを使いシートを組み立てていきます。
ついにシートが完成しました! JRバスやウィラーバスなど、見慣れたシートが出荷の順番を待ちます。
多い日には1日に30台分のシートが出荷されていくとのこと。天龍工業のすごい仕事ぶりが伝わってきますね。
それにしても、多くの工程が手作業により成り立っているのには驚きでした。
機械によってよりオートメーション化していくことはできないのでしょうか?
今回工場を案内していただいた清水さんによると、以下のような回答でした。
なるほど、多様なシートに対応するには、その都度専用の機械を作るのではなく人間の手がいちばんというわけですね!
天龍工業がつくるシートは、まさに人間の手、職人の技(わざ)によって生まれているもの。その技術の高さにはホントに驚きました!
この工場から、話題になった「ドリームスリーパー」「ラクシア」「グランドリーム」などの豪華バスをはじめ、たくさんのバスのシートが誕生しています。
実際に乗ったことのあるバスのシートも多かったですが、目の前でつぎつぎと完成するできたてほやほやのシートは美しく、「ああこのバスに乗って旅に出かけたい!」という思いに駆られてしまうほどでした。
素敵なシートが生まれる貴重な現場を見せていただきました! お忙しい中ありがとうございました。