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「大気の状態が不安定」とは、地上付近と上空の温度差が大きく、局地的な対流活動が起こりやすい状態のことです。つまり、積乱雲が発達しやすい状態を表しています。
地上付近に暖かい空気、上空に冷たい空気があると、重い空気が上、軽い空気が下になっているため、不安定な状態になっています。この不安定を解消するために暖かい空気は上昇し、冷たい空気は下降しようとして、対流活動が起こりやすくなります。
このとき、対流活動によって上昇した空気が周りの空気よりも暖かければ、その空気の塊はさらに上へと昇っていきます。上昇した空気は、やがて上空で冷やされ、水や氷の粒となって雲を作ります。活発な上昇気流によって雲がどんどん成長すると、その中では雲の粒がぶつかりあって雨粒になったり、静電気によって雷が発生したりします。
このように、地上付近と上空の温度差が大きいほど、強い上昇気流を発生させ、積乱雲を発達させるのです。
また温度差に加えて、地上付近の空気が湿っているとさらに不安定になります。
断熱的に空気の塊を上昇させたとき、高度が上がるにつれて空気の温度は下がっていきますが、湿った空気の場合、凝結すると潜熱を放出するため、その分乾いた空気よりも温度の下がり方が小さくなります。すると、その空気の塊は、周りの乾いた空気よりも温度が下がりにくい=相対的に暖かく軽くなって、さらに上昇気流が発達しやすくなるのです。
大気の状態が安定・不安定のイメージ
大気の状態が不安定になる、つまり地上付近と上空の温度差が大きくなる原因には、以下のようなものがあります。
①上空に寒気が流れ込む、②下層(地上付近)に暖かく湿った空気が流れ込む、③日射の影響で地上付近の気温が上昇する場合です。
例えば、①は上空を寒気を伴った気圧の谷が通過する時、②は台風が近づいているときや梅雨前線・秋雨前線付近、夏の太平洋高気圧の縁辺などがこれに該当します。③は夏のよく晴れた暑い日に、強い日差しで地上付近が暖められた時がそうです。
こうした条件が組み合わさることで、大気の状態が不安定になります。
大気の状態が不安定になる条件
大気の状態が不安定なときは、天気が急変して、局地的に激しい気象現象が起こりやすくなります。発達した積乱雲による強い雨(ゲリラ豪雨)や落雷、竜巻やダウンバーストなどの突風、ひょうなどに注意が必要です。
実際に、大気の状態が不安定なときに発生した事例をみていきましょう。
発達した積乱雲がもたらす現象
【事例1】2012年5月6日 上空の強い寒気などによって竜巻や降ひょうが発生
2012年5月6日、上空に強い寒気を伴った低気圧(寒冷渦)の影響で、茨城県、栃木県、福島県で竜巻が発生しました。
この日、上空5500m付近には-21℃(平年値は-14.3℃)の強い寒気が流れ込みました。さらに下層では低気圧に向かって南から暖かく湿った空気が流れ込み、加えて午前中晴れて気温が上がりました。前述した①〜③の条件が重なって、大気の状態が非常に不安定となり、東日本を中心に昼前から局地的に積乱雲が発達しました。
茨城県、栃木県、福島県で竜巻が確認され、とくに茨城県つくば市から常総市にかけて発生した竜巻はF3スケールと、日本で起こった竜巻としては最強クラスでした。この竜巻によって死者1名、76棟の住家が全壊するなど、大きな被害が発生しました。
また、水戸市では直径28mmのひょうを観測するなど、各地で被害が出ました。
2012年5月6日の天気図と気象レーダー画像
【事例2】2008年7月27〜28日 上空の寒気と下層の暖湿気流の影響で、大雨による水難事故などが発生
2008年7月27日〜28日にかけて、上空の寒気と下層の高気圧の縁を回る暖かく湿った空気の影響で、大気の状態が不安定となり、中国地方〜東北地方の各地で積乱雲が発達し、大雨や落雷、突風などが発生しました。
局地的な豪雨によって河川では急激な増水が起こり、群馬県みなかみ町の湯檜曽川で1名、兵庫県神戸市の都賀川で5名の方が巻き込まれて亡くなりました。都賀川の事故は、上流で降った大雨によってわずか10分の間に下流の水位が1.3mも上昇し、児童らが流されてしまったという、大変痛ましい事故でした。当時のニュースを覚えている方も多いでしょう。
また、兵庫県姫路市では落雷による死者が、福井県敦賀市では突風による死者も出るなど、各地で局地的な気象現象による災害が相次ぎました。
2008年7月28日の天気図と気象レーダー画像
「大気の状態が不安定」という言葉を見聞きしたときは、「急な強い雨や落雷、竜巻などの突風、降ひょうなどが発生する可能性があります」という合図です。
こうした際には、以下の気象情報をこまめにチェックするようにしましょう。
<大気の状態が不安定な時にチェックすべき気象情報>
・雷注意報
・竜巻注意情報
・気象レーダー(雨雲レーダー)
・雷ナウキャスト(雷レーダー)
・竜巻発生確度ナウキャスト
さらに、気象情報とあわせて、実際の空のようすや変化にも注意を払いましょう。天気急変の前兆となる現象は、大きく3つ挙げられます。
<天気急変の前兆>
・真っ黒な雲が近づいてきた、急に空が暗くなった
・雷の音が聞こえてきた、稲妻が見えた
・急に冷たい風が吹いてきた
また、川の近くにいる場合、水かさが増えたり濁ったりしたときには、上流ですでに天気の急変が起こっていて被害が発生する可能性があるため、すぐに川から離れましょう。
このような前兆に気づいたら、すぐに安全な所へ避難して、身の安全を確保してください。
<天気急変の前兆に気づいたら>
・ゲリラ豪雨の場合は、激しい雨によって増水や浸水の可能性があるため、河川などの水辺や地下、アンダーパスには近づかない
・雷の音や稲妻に気づいたら、開けた平らな場所や軒下、高い木の下から離れ、頑丈な建物や自動車、避難小屋などへ避難する
・ひょうやあられが降ってきた場合は、家の中では雨戸やシャッター、カーテンを閉めて窓から離れる
ゲリラ豪雨、落雷、竜巻、降ひょうへの対策は、防災情報特集ページ「知る防災」でも詳しくご紹介しています。ぜひあわせてチェックして、いざというときのための備えをなさってください。
天気急変の前兆
(参考)
・気象庁「平成24年5月6日に発生した竜巻について(報告) 」
・気象庁「大気の状態不安定による大雨と突風 平成20年(2008年)7月27日~7月29日 (速報)」