夏の暑さが和らぎ、ホッとしている人も多いのではないでしょうか。
そろそろ蚊の季節も終わりかと思いがちですが、気温が下がってきた秋の方が、真夏よりも活発に活動する、とも言われているので、しばらくは注意が必要です。

筆者が住むフランスでは、かつて蚊の被害は少なかったものの、近年、ヒトスジシマカをはじめとする蚊の数が増加しています。
20年ほど前まではフランスにいなかったヒトスジシマカ。一体なぜ増えているのでしょうか?

本記事では、蚊の発生しやすい条件や、ヒトスジシマカのフランスへの広がり、それに伴う感染症のリスクなどについて解説します。


蚊が発生しやすい条件

日本で馴染みのある蚊といえば「ヒトスジシマカ」や「アカイエカ」、「チカイエカ」がいます。
これらの蚊の活動期には、気温が大きく関係しています。
暖かい気候であれば、春から秋にかけて長く発生し、家の中に潜む蚊はそのまま越冬することもあるんです。

別名ヤブ蚊とも呼ばれるヒトスジシマカは、屋外に生息し、黒い体に白い縞模様が特徴的です。約25度~30度を好み、主に昼に吸血するので、レジャーやアウトドアの最中にもよく見かけますよね。

一方、アカイエカ(チカイエカも同様)は約20度~30度を好みます。体の色は赤褐色で、主に家の中に生息し、夜間に吸血します。

どちらの蚊も気温が30℃を超えると動きが鈍くなるので、30℃以上の猛暑が続くと、昼間に活動するヒトスジシマカの動きも停滞します。
日差しが強い真夏の日中は、木陰などで直射日光を避け、朝や夕方になると活動することが多いようです。
しかし、家の中にいるアカイエカは、一日中エアコンが効いた涼しい部屋で活動できるため、猛暑であっても油断はできません。

これらの蚊は、産卵場所として水辺を選び、池や水田、下水溝、浄化槽、空き缶に溜まった雨水など、ちょっとした水たまりにも産卵します。
家のまわりのバケツや植木鉢の受け皿、古タイヤなどの水溜まりや、ペットボトルのキャップ程度のほんの少しの水であっても産卵するので、繁殖を防ぐにはこまめに水を排除するなど注意が必要です。[※1]

<出典>
[※1]フマキラー
https://fumakilla.jp/column/ka/4/


なぜフランスにヒトスジシマカがやってきた?

ヒトスジシマカは、2004年頃に初めてフランス本土で確認されました。
東アジア原産のヒトスジシマカですが、フランスへの侵入の根源は、アジアから輸送された中古タイヤだと言われています。
屋外に保管されたタイヤには雨水が滞留しやすく、そこへ蚊が卵を産み付けることがよくあります。それがそのままフランスへ運ばれてしまった、というわけです。[※2]

その後は、フランス国内に広がり続けています。
2024年初めには、フランス本土96県のうち78県でその存在が確認されており、20年ほどでフランスのほぼ全土に定着したことになります。[※3]

<出典>
[※2] France bleu.fr
https://www.francebleu.fr/infos/sante-sciences/le-commerce-de-pneus-a-l-origine-de-la-presence-du-moustique-tigre-dans-les-alpes-maritimes-1662719010

[※3]Santé.gouv.fr
https://sante.gouv.fr/sante-et-environnement/risques-microbiologiques-physiques-et-chimiques/especes-nuisibles-et-parasites/article/cartes-de-presence-du-moustique-tigre-aedes-albopictus-en-france-metropolitaine


蚊の増加を助長するフランスの夏の気温上昇

フランスの夏は、ここ20年ほどで徐々に暑くなってきています。

気象庁のデータによると、7月、8月、9月の月平均気温は2000年頃からじわじわと上がり続け、猛暑日も増えています。例えば、2000年代初めの7月のパリの平均気温は約20℃でしたが、最近では22℃前後まで上昇しています。

このような温暖化はフランス全土に影響を与えており、今後もさらに暑くなるのではと心配されています。

実はこの気温上昇が、ヒトスジシマカの増加を招いた大きな理由の1つとされているのです。
温暖化により繁殖可能な範囲が広がり、活動期間も延びるなど、暖かい気候を好むヒトスジシマカがフランスでも住みやすくなり、数を増やしているといわれています。

私がフランスで過ごした初めての夏は、事前に知人から「フランスに蚊はほとんどいないよ」と聞いていたとおり、家族揃って一度も刺されず、見かけることすらありませんでした。

ところが翌年の夏には、数回ですが蚊を目撃し「フランスにもいるんだ…」とがっかりしたのを覚えています。
今年はあちらこちらで見かけ、私も子供たちも何度も刺されるなど、年々増加しているのを実感しています。

屋外にいても、蚊を少しも気にせずに過ごせたフランスの夏は、どこに行ってしまったのか…とても残念です。

また、ヒトスジシマカは、デング熱などのウイルスを媒介する可能性もあります。年々増加傾向にあるフランスでは、ヒトスジシマカに刺されることによる感染症のリスクが懸念されています。
デング熱の輸入症例数も増加していることから、保険当局は、デング熱の発生リスクを抑えるために、リーフレットを配布するなど国民に警戒を呼びかけています。

温暖化が「蚊の増加」という、思わぬところへも影響を及ぼしていることに驚きました。

以前は、蚊に刺されることもあまり多くなかったフランス人の家には、日本の家にあるような、虫の侵入を防ぐ網戸はありません。
夏でも湿度が低く、日本と比べて涼しいのでエアコンもなく、暑い日には窓を開けて風を通すのが一般的です。
また、フランス人は屋外で過ごすのがとても好きなので、気候のいい日には、家の庭やレストランのテラス席で食事をする機会がとても多いです。

もし今後も蚊が増え続け、頻繁に刺されてしまうようなことになれば、この生活スタイルも変化を強いられるかもしれませんね。

今後も活動範囲の拡大や活動期間の長期化が予測されます。
まずはできる限り蚊を増やさないよう、地道な取り組みをひとりひとりが心がけたいですね。

情報提供元: tenki.jpサプリ
記事名:「 夏の風物詩“蚊”フランスで急増中な理由とは?