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マルチセル型はセル(積乱雲)の形態に着目した時の分類の1つで、セルの形態に着目すると一般的に以下の3種類に分けることができます。
シングルセル型
単一のセルから構成され、上昇流か下降流のどちらかが卓越しています。寿命は30分~1時間で水平スケールは5~15 km程度、鉛直シアが小さい時に発生しやすいです。
マルチセル型
複数のセルにより組織的に構成され、発達度の異なる複数のセルが世代交代を繰り返しています。寿命は数時間以上となり、水平スケールは20~100 km程度、鉛直シアがある程度大きい時に発生しやすいです。
スーパーセル型
単一セルからなりますが、シングルセル型とは異なり、上昇流か下降流が同時に存在していることが特徴です。寿命は数時間以上となり、水平スケールは数10 km~100 km程度、鉛直シアが大きい時に発生しやすいです。
上記のように、シングルセル型・スーパーセル型が単一の積乱雲であるのに対し、マルチセル型はマルチという名の通り複数のセルから構成され、発生には鉛直シアがある程度大きいことが重要になります。
マルチセルの発生に重要な鉛直シアが大きいとはどのような状態を指すのでしょうか?
シアとは「ずれ」のことを指し、風同士の風速の「ずれ」を風速シア、風向の「ずれ」を風向シアと呼びます。
鉛直シアは、高度から異なる2点の風ベクトルの差を表すので、鉛直シアの大きい状態は、風向シア、風速シアまたはその両方が高さとともに大きく変化していることを意味します。
鉛直シアが大きい場合、雲が組織化する理由を考えてみましょう。簡略化のため、一般風(周辺で吹いている風)は西風であり、図(a)のように風向の変化がなく、高度とともに風速が強まる場を考えます。
一般的に雲は対流圏の中層の風に流されることが多いため、雲から見た相対的な一般風は、図(b)のように下層では雲に向かって吹き込むことになります。雲から降水により冷気外出流が発生すると、図(c)のように、吹き込む風とぶつかることで上昇流が生じ、条件付不安定な場では新たな雲が発生することになります。新しい雲は、下層の湿った空気を取り込み発達する一方で、既存の雲は雲の素となる下層の湿った空気の供給が無くなるため次第に衰弱していきます。
このように、鉛直シアがある程度大きい状態では、既存の雲に変わり新たな雲が生じ、セルの世代交代が発生します。生物の細胞が自己増殖する様子になぞらえて降水セルの自己増殖作用とも呼びます。
鉛直シアの大きさによって雲の発生がどうなるかを図解したのが上図です。
鉛直シアがある程度ある場合、先ほど説明したようにセルの世代交代により雲がまとまって発生しやすいですが、鉛直シアが大きすぎると雲の移動が早いため、組織化することができません。鉛直シアがない場合は、新しい雲が発生しないため、シングルセル型となります。
ここからはマルチセル型雷雨のメカニズムを模式図を使ってみていきましょう。
第1段階
下層に暖かく湿った空気がある環境場において、発生期の雲が誕生します。
第2段階
発生期の雲は中層の風に流されながら成長期に移行します。
第3段階
成長期の雲は成熟期を迎え、雨を降らせることにより下降流である冷気外流出が発生します。
下降流と下層の風がぶつかることで成熟期の雲の後面に新たな雲が発生します。
第4段階
雨を降らせた雲は衰退期となり次第に消散していきますが、後面に出来た雲が新たに成熟期を迎え、後面に新たな雲を発生させます。
上記のように、風上側で新しい雲が発生し続け、先に発達した積乱雲から生じた冷気外出流が後の積乱雲の成長を促進させることで世代交代を繰り返すことで、マルチセル型雷雨が発生します。
ここ数年で大雨や集中豪雨の原因として説明されることの多い、線状降水帯もマルチセル型雷雨の1つです。線状降水帯は降水の形状に着目した名称であり、マルチセル型雷雨は積乱雲(セル)の形態に着目した名称です。
線状降水帯の1つであるバックビルディング型では、風速シアが大きい時、つまり下層風と上空(高さ3 km付近)の風向がほぼ同じで、かつ上空に向かって風が強くなっている時に発生しやすいといわれています。
近年発生している集中豪雨のうち、台風の直接的な影響を除くと約6割が線状降水帯が原因であり、梅雨の時期が線状降水帯が最も発生しやすいタイミングの1つと言われています。本格的な大雨シーズンに迎える前に雨への備えをしてみてはいかがでしょうか?
線状降水帯の詳しいメカニズムや大雨への備えについては、下記関連リンクをご覧ください。