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長い尾をひきながら、夜空に淡い輝きを放つことから「ほうき星」とも呼ばれる彗星。本体は数キロメートルから数十キロメートルの小さな天体です。主な成分は氷の状態の水で、二酸化炭素、一酸化炭素といったガスや微量の塵で形成されています。その姿は、氷の表面に砂がついた「汚れた雪だるま」に例えられます。
彗星が太陽に近付くと、熱で本体の表面が少しずつ溶けて氷が蒸発し、ガスと塵も表面から放出されます。彗星の本体が淡い光に包まれたように輝いて見え、これは「コマ」と呼ばれています。印象的な彗星の尾は、見え方や成分により2つの種類があります。ガスがつくる「イオンの尾(または、プラズマの尾)」、もうひとつは塵がつくる「ダストの尾(または、塵の尾)」です。彗星が太陽に接近すると、本体から放出されるガスや塵の量も多くなり、コマはより明るくなり、尾も明るく長く伸びていくのです。
太陽系の惑星の公転軌道は円に近い楕円を描いていますが、彗星の公転軌道は細長い楕円のものが多くなります。放物線や双曲線軌道を描くものもあり、このような彗星は太陽に近付くのは一度きりで二度と戻ってきません。楕円軌道をもつ彗星のうち、公転周期が200年以内のものは「短周期彗星」、それよりも長いものは「長周期彗星」と呼ばれています。短周期彗星の大部分は、ほぼ惑星と同じ黄道面に沿って、惑星と同じ向きに公転しています。一方、長周期彗星の軌道は黄道面とは無関係で、公転の向きも規則性がありません。約70年周期の「ポン・ブルックス彗星」は短周期彗星にあたり、「紫金山・アトラス彗星」は二度と帰還しない長周期彗星と予測されています。
3月下旬から4月に明るくなり観測の好機を迎える「ポン・ブルックス彗星」。1812年にフランスの天文学者ジャン=ルイ・ポンが発見、1883年にはアメリカの天文学者ウィリアム・ブルックスによって再発見され、後に同一の天体であると確認されました。約70年の周期で太陽に接近し、前回の観測は1954年でした。
今回の回帰では、3月後半頃から双眼鏡で捉えられると期待されています。3月はアンドロメダ座からうお座、おひつじ座へと移動していき、夕方から宵の早い時間帯に西北西の低空に見えます。この頃の明るさは5~6等級と予測されています。
4月に入ると明るさが増し、月明かりの影響が少ない4月10日頃までが観測のチャンス。ポン・ブルックス彗星は、急激に増光する「バースト」を繰り返す特徴があります。太陽に最接近する近日点通過は4月21日。この日の前後にバーストを起こすと、さらに明るくなる可能性も。4月25日以降には月の出前に見ることができるため、4月いっぱいは好条件といえます。70年ぶりに帰ってきた周期彗星をぜひ観測したいですね。
「紫金山・アトラス彗星」の出現は、2024年最大の天文イベントになると期待されています。中国の紫金山天文台と小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS、アトラス)によって2023年1月に発見された新彗星です。二度と回帰しないとみられる双曲線軌道をもつため、今回が最初で最後の観測の機会となるでしょう。
近日点を通過する9月28日頃には、マイナス等級まで明るくなると予測されています。この前後の時期は日が昇る直前の東の低空に見えます。10月10日頃になると、日没後の西の空に尾をひく姿が見えると期待されています。
最大でマイナス5等近くまで明るくなるとの予測もあり、天文ファンの注目を集める紫金山・アトラス彗星。尾を引く彗星を肉眼で眺める、またとない機会を楽しみに待ちましょう。
・参考文献
『アストロガイド 星空年鑑 2024』 アストロアーツ
・参考サイト
国立天文台「彗星」