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五日に「啓蟄」を迎えると春は盛りとなる仲春に入ります。陽気が地中で動き出し、寒さの中縮こまっていた虫たちが穴を開いて外に出てくるのが「啓蟄」です。「啓」は開く「蟄」は隠れる、とじこもるという意味になります。「虫」の字が入る「蟄」からは冬にじっと耐えているようすが見えてきます。
「啓蟄」は現代人の私たちにとっては気にすることなく過ぎていく節気となっているようです。虫や小動物が身近にいた時代とは大きく生活も変わっていますが、歩きながら道路に沿って植わっている木々などをよく見ると、地中から這い出してきたような小さな虫を見つけることがあります。
≪啓蟄のいとし児ひとりよちよちと≫ 飯田蛇笏
歩き始めた幼いわが子のようすに、這い出してきた虫を重ねて眺める俳人の目のつけどころにはクスっとしてしまいます。「啓蟄」が持つのは伸びゆくエネルギーです。
木々もそれぞれに時節を迎えています。道行けば枯れ枝に萌す赤味がかった芽を見つけたり、漂ってくる沈丁花の香りにハッとすることもあるでしょう。桃の花がほころんでくる頃です。
カストルとポルックスの名でお馴染みの「ふたご座」は3月、20時頃に天頂近くに現れます。夜空の晴れた日にはぜひ楽しんでみましょう。
見つけ方は簡単です。南の空に大きな三角が見えませんか? オリオン座のベテルギウス、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオンが作る冬の大三角です。これを上に向かってたどってください。明るく二つ並んでいる星がふたご座のカストルとポルックスです。少し明るい方が弟のポルックスで1等星、兄のカストルは2等星でそれぞれ二人の頭の星となっています。
ギリシア神話では大神ゼウスとスパルタの王妃レダの間に双子として生まれたとされています。兄のカストルは母である人間の血を引き継ぎ人間の身体を持ちました。神である父の血を引き継いだ弟のポルックスは、神の子となり不死身の身体を持つことになりました。
二人はたいへん仲良く成長し逞しい戦士となったのです。ある戦いの時カストルは槍で突かれて息を引き取ってしまいます。大切な兄を亡くした弟ポルックスの悲しみは深く、父ゼウスに自分の命を兄のカストルに分けて欲しいと願ったそうです。ゼウスはポルックスの願いを聞き届け、亡くなったカストルと共に二人を天に上げて星にしたと言われています。
二人は今でも夜空で仲良く暮らしている、というわけです。星占いなどで双子座生まれの人の性格について二面性が言われたりします。もしかしたら神様と人間の二つを合わせて持っているからかもしれません。
春が深まるにしたがって冬の星座たちは西へと移動していきます。