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米作りが中心にある日本で「夏至」は田植えが終わりに向かう時期として大切な目安となっています。それにともなって豊作を祈ったり、季節の変わり目として厄災を祓う「夏越の祓(なごしのはらえ)」などが行われています。寺社では大きな茅の輪がたてられて「茅の輪くぐり」をする人々で賑わいます。
六月には、この時季ならではのお菓子「水無月」も店先に並んでいます。白い三角形のういろうの上に甘く煮た小豆がのっているのが定番。ういろうは氷に見立て涼やかに、小豆の赤で厄を祓う、という祈りがこめられているそうです。湿度の高い季節は疫病がはやることも多かったのでしょう。穢れを祓い健やかに夏を過ごしたい人々の思いが伝わってきます。
現代では健康に暮らせることがごくあたりまえのこととされますが、新型コロナウイルスの猛威を経験した今では昔の人が感じた恐れを実感することもできます。忙しさの中にも少し立ち止まって「夏越の祓にご一緒しませんか」または、「せっかくですから水無月、食べてみませんか」なんていうお誘いには情緒が感じられます。
一日の昼と夜の時間が少しずつ変化して一年がある。あたりまえのことですが、これは地球の自転軸が太陽に対して約23.4度傾いて公転していることから起こる現象です。北半球ではこの日に太陽が最も高い位置に昇り、昼の時間がもっとも長くなります。特に緯度の高いヨーロッパや北欧の冬は昼の時間が短い分、夏の日照時間を大切に思う気持ちが理解されます。
「夏至」を正確に捉えていたことで知られるのがイギリスのストーンヘンジです。何千年も前の先史時代の巨石群遺跡ですが、いまだに何のために作られたのかその目的がわかっていないそうです。しかし天体の観測が正しく行われていたことは確かだということです。
「夏至」の頃をいう「Midsummer」を題名に含むシェークスピア「夏の夜の夢」はヨーロッパの「夏至祭」の雰囲気を伝えている物語として知られています。人々は陽気に楽しく、遅くまで明るい昼を思い切り楽しもうという遊び心に溢れ、花を飾り火を焚き、踊ったり歌ったりふざけあったり羽目を外して楽しむ時と考えていたように思われます。民族学的には精霊が活発に動き回り妖精たちも活躍するとされ、なにか不思議なことが起こるのを期待していたからかもしれません。正に太陽がもたらす祝祭といえそうです。
仕事帰りに誘い合わせて劇場へ。「夏至祭」と気取ってみるのもまた一興。楽しみ方を見つけていきましょう。
ちょうど「夏至」の頃、日本はまだまだ梅雨の最中で雨がよく降ります。とはいっても「夏至の雨」と聞くとそれほど暗さを感じません。アジサイやカキツバタといった色鮮やかな花が、雨を得ていっそう大きくなり盛んに咲いている時季だからかもしれません。雨に濡れた花の美しさもまた明るさにつながっているのでしょう。
≪山の木の葉音さやかや夏至の雨≫ 鷲谷七菜子
葉を打つ雨は「さやか」と音を聞かせる表現がされており、「夏至の雨」がもつ明るさを見せています。
≪夏至の雨山ほととぎす聴き暮らし≫ 田村木国
こちらは「ほととぎす」が登場です。鳥も人間もなんとものんびりとした光景が浮かんできませんか? 梅雨のうっとうしさがどこかへ行ってしまったかのようです。
雨の時は雨を受け入れ、耳にはいってくる音や目に飛び込んでくるものを楽しむ。まだまだ暗くなるのには時間がありそうです。「夏至」の楽しみをもう一つ作りにいきましょう。