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初夏から仲夏への切り替わり、それが二十四節気の「芒種」といえそうです。太陽黄経は75度。今年は6月6日になります。「芒(のぎ)」はイネ科の植物がもつ細くて固い毛のような突起のこと、「芒種」は田植えを始める目安とされてきました。
≪芒種はや人の肌さす山の草≫ 鷹羽狩行
≪さらさらと竹に雨くる芒種かな≫ 岸田雨童
雨が降って一気に大きく伸びた草、竹に降る雨音といった情景を添えることで田植えのようすが生き生きとしてきます。俳人たちのまなざしは自然をおおきく包み込んでいるようです。
田植えが終わったばかりの田んぼを「早苗田」といいます。水面には植えたばかりの苗の柔らかな緑が揺れ、雨が降れば水の輪が広がります。また天気がよい日には青空や山々の木立が映りキラキラと光が踊ります。
≪早苗田を水の神々渡りゆく≫ 品田弘子
六月は田んぼが生き生きと輝く季節ともいえましょう。
「そろそろ梅雨入りかしら?」空を見上げながらそんなことばが出るのが六月でしょうか。「二十四節気」と「七十二候」を補うものとして「雑節」があります。「入梅」は「雑節」のひとつで梅雨入りの目安とされてきました。太陽黄経80度を通過した日で今年は6月11日になります。現在は気象庁の判定によって梅雨入りが地域ごとに発表されます。
梅雨入りと梅雨明けは多くの人が高い関心を寄せます。梅雨の雨は農作業にとって夏に必要な水を貯める時として重要であり、一方では大雨による災害の発生も気になるところです。また工事などの作業は天気に左右され日程がうまく進まない等、日常生活にもさまざまな影響があらわれるのが梅雨という季節です。
梅雨の雨を「五月雨」と書いて「さみだれ」といいます。「さ」は時期的に早く若々しいさまをいい、また五月を意味します。五月は「若々しい月」から「さつき」というわけです(※諸説あり)。「さみだれ」は「五月(さ)」の「水垂れ(みだれ)」と解釈できそうです。旧暦では五月に梅雨がくるので「五月雨」となっています。
田んぼに降り注ぐやさしい恵みの雨の情景は雅びな印象もありますが、秋に向かっての稔りを祈りたくなる神聖な雨とも感じられます。
梅雨の季節の花といえばなんといっても「紫陽花」が美しさを発揮します。四枚の花びらを意味する「四葩(よひら)」ともよばれるのは、手まりのように咲く紫陽花が四枚の花びらを持つ小さな花の集まりのようにみえたからでしょう。実は花びらに見えるのは蕚、本当の花になるのはその真ん中にある小さな丸い部分です。開けば花びらから雄蕊と雌蕊が立ち上がっているのが確認できます。萼や花びらの枚数は花により増えたり減ったりするそうです。
赤、青、紫と色のバリエーションが多いのも「紫陽花」の魅力といえます。ひと株の木の中に色の違う花が咲くばかりでなく、時とともに色が変化もしていくということにも驚かされます。最近ではその理由も多くの人に知られるようになりました。カギとなるのは「紫陽花」が持つ色素「アントシアニン」です。土壌に酸性成分が多く含まれていると青色に、アルカリ性だと赤色に、アントシアニンが結合する成分によって色が変化するということです。
≪紫陽花やはなだにかはるきのうけふ≫ 正岡子規
「はなだ」とは「縹色(はなだいろ)」で明るさのある青色です。藍染め色のひとつで日本では古くからある伝統的な色の名前。梅雨の雨で土の中の酸性とアルカリ性が日々変化していったのでしょう。写生を俳句作りの基本に据えた子規の観察眼は、紫陽花の色が変わっていく瞬間を見事に捉えています。
「紫陽花」の美しさはとりどりの色をもつ花ばかりではなく、くっきりとした葉脈を見せる葉の重なりがあってこそ、いっそう引き立つのではとも感じます。鬱陶しいと感じてしまう梅雨ですが、自然が見せる季節の美しさをぜひ見つけていきたいですね。