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本名は「げんげ」。親しまれている名前「レンゲ草」の由来は花の形にあります。一つ花のように見えますが、実は小さな花が輪になっておりその姿が蓮の花、つまり蓮華に似ているので「レンゲ草」の異名がついたそうです。
茎から伸びた柄に葉と花が真っすぐに伸びます。葉よりも花の柄が長く伸びるのでしょう。紅色の花がツンと立ち小さな花ですが、目を惹くはなやかさがあります。花の付き方もちょっぴり蓮の花に似ているようです。
一面が紅色の絨毯を敷き詰めたように広がる「レンゲ草」の景色を見たことはありませんか? マメ科の「レンゲ草」は、かつては肥料となるために田んぼに植えられていました。春に、はなやかな姿を見せて咲きそろうと現れるのはミツバチです。レンゲの蜜は美味しく日本では多くの人々に親しまれたハチミツでした。蜜蜂たちの仕事が終わると「レンゲ草」は田んぼに鋤き込まれ、いよいよ新たな米作りのはじまりとなります。
春に広がる「レンゲ草」は日本を代表する里山の風景でしたが、化学肥料が発達した今では、残念なことにあまり見られなくなりました。それでも田んぼのあぜ道では今でも見かけます。また街中でも河原の土手や線路際の堤、舗装が切れてしまった道端など、ひと雨ごとに雑草の勢いが増していく中に紅色の花を見つけることができるのは嬉しいことです。
クローバーと呼んだほうがしゃれているでしょうか。柔らかな三つ葉が地面に広がる中、小さな手毬のような花を咲かせているのが「シロツメクサ」です。温かくなるといつの間にか野原や公園、土のあるところなら何処でもひょいっと顔を見せています。思わず座り込んで四つ葉を探してしまった、なんていう頃もありました。幸福を呼ぶという「四つ葉のクローバー」はなかなか見つけられませんが、見つけたときの喜びはなんとも言えません。
≪誰が編みししろつめくさの花冠≫ 高田正子
それにしても「シロツメクサ」とは奇妙な名前だと思いませんか? その昔オランダから船でガラス製品を送ってくるときに、品物が壊れないように箱の隙間に乾燥させたクローバーを詰めこんだそうです。その種がこぼれ落ち芽生えて日本に広がったということです。白い花が咲き、詰めものにされた草だから付いたという名前の「シロツメクサ」、そのままですね。
「シロツメクサ」も「レンゲ草」と同じマメ科で牧草や緑肥としても活用されています。そこからでしょう、またの名を「ウマゴヤシ」とも言われています。
≪蝶去るや葉とぢて眠るうまごやし≫ 杉田久女
春はすべてが成長し伸びゆく時季、動物にとっても植物にとっても生きるための環境が季節と共に整えられていくのを感じます。
小さなこぶしを丸めてちょこっと振り上げるように、渦を巻きにょろりと伸びてくる姿はいかにも春の到来を待っていたように見えます。
≪石(いわ)ばしる垂水(たるみ)の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも≫ 志貴皇子
『万葉集』に詠まれ長く人々に愛唱されてきた春の歌です。流れ落ちる水の豊かさの横に見つけたワラビの芽生え、春のおとずれを喜ぶ気持ちが溢れだすのを感じます。
「ワラビ」の食べ頃はもうこの赤ちゃんのようなときです。茹でてアクを抜きおひたしにしたり、油揚げと一緒に炊き込みご飯にしても美味しいですね。
「ワラビ」といえば、もう一つ美味しいものがありました。わらび餅です。透明なぷるんとした滑らかさは口あたりもよく、黒蜜やきなこともからめていただく、多くの人が好むおやつですが、実は同じこの「ワラビ」から作られています。
「ワラビ」は成長するにつれて巻いていた渦が開き、羽のようなシダに似た大きな葉が開きます。一方根っこは太く長く地中を這っていきます。この根を取り出し乾燥させて打ち砕き、とり出したでんぷん質がわらび餅になります。大変な労力と時間がかかるのがわかります。また、残りの繊維は丈夫で縄として活用されていたそうです。最初は赤ちゃんのこぶしのような「ワラビ」ですが、力をつけて最後まで使われていきます。
ふだんは急ぎ足で通り過ぎてしまう道でも気をつけて見てみると、つぎつぎと芽吹き成長していく草花たちに気づきます。姿は小さいですが、それぞれに役割を持って生き生きとしているのを感じます。土さえあれば隙間をぬって生えてくる春の草花の生命力は素晴らしいですね。
桜の花を追いかけている間に地面にも春が押し寄せています。小さな草花を探すお散歩にちょっと出かけてみませんか?
参考:
「野山でたのしむ春の草花」河野玉樹文 著・大室君子 絵(さ・え・ら書房)
「図解観察シリーズ: 身近な植物5 春の草花」松原厳樹 著(旺文社)