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土鍋に昆布を一枚いれて水を注ぎそのままに、昆布の旨味が出るのを待ちましょう。あとは豆腐を四角に切ってそっと土鍋の中にいれてください。そして塩を一つまみ。さあ、温めましょう。火加減には注意してくださいね。豆腐がゆらゆらと揺れるくらいが目安です、火は弱くしておきます。
豆腐は決して煮立たせてはいけません。豆腐に含まれる水分が沸騰する力で豆腐に穴があいてしまうのです。豆腐に「す」が立つと、柔らかな豆腐を固くし、ポロポロとなって美味しさが失われてしまいます。
《湯豆腐の踊りはじめを先ず掬ふ》 佐々木由紀子
アクが浮いてきたら軽く取ります。これでできあがりです。真っ白な豆腐の肌が光り輝いていませんか? 温まっている豆腐を一つ、崩さないように器に取ってください。
まずは豆腐の色、白の美しさを楽しみましょう。きっちりと四角く包丁で切り分けられたやわらかい豆腐が、ゆらりと存在する。色といい形といい何だか芸術品にも見えてきます。つい愛でたくなるのも「湯豆腐」の魅力のひとつ、そう思われるのです。
昆布出汁で温められた豆腐の美味しさを決めるのはやはり薬味とたれ。それぞれの家庭にある伝統やひとりひとりの個性が発揮されます。おばあちゃんやお母さんから「こうして食べると美味しいよ」と聞いていたなぁ、という想い出はありませんか。
王道の薬味といえば、刻みねぎ、おろし生姜、もみじおろし、刻みみょうが等。どれもピリっとした刺激を味わいながら香りを楽しめるところに、変わらない魅力がありそうです。どんな時もそばにあって欲しいのは大根おろし。フレッシュな風味と味わいを逃さないためには、食べる直前におろすのがいいようですよ。
定番だけでは飽き足りないあなたのお好みはいかがでしょうか? 香りとちょっとした刺激という流れでは柚子胡椒も人気です。塩味がついていますので、たれの代わりにチョンと豆腐にのせるだけ、というのも手軽で楽しめるところです。
工夫とアレンジ次第でさまざまな味を楽しめるのも「湯豆腐」の魅力。ポイントは色どりでしょうか。真っ白な豆腐に映える薬味は熱々の湯気で温められ、香りも味わいも増していますが、食材も色鮮やかになって、目でも味わっていたのだと、のだと、気づかされます。
「湯豆腐」の魅力は豆腐の白さと美しさ、そして薬味が加える色どりと香りですが、もうひとつの決めてはたれ。これもやはり冬の果物が力を発揮します。ぜひ用意したいのが、香りが強く酸味のある柑橘類の柚子・カボス・スダチです。
市販されているポン酢に絞り汁を足すだけで味も香りも一段とあがりますが、一手間かけて自分で作ればいっそう「湯豆腐」を美味しく楽しめそうです。
保存容器に醤油をいれ昆布と鰹節を沈めます。そこにお好みの柑橘類の絞り汁を足していきます。醤油3に対して果汁2を目安にしてください。これを冷蔵庫で1週間から2週間ねかせて置きます。じっくりねかせることで昆布と鰹節の旨味が充分に引き出され、柑橘の酸味もまろやかな味わいに仕上がっていきます。使う時は昆布を取り出して鰹節をしっかり絞ってください。多めに作って冷蔵庫で保存しておけば冬の間はゆっくり楽しめますよ。
大豆だけというシンプルな素材を味わうのが「湯豆腐」。もしかしたら単純すぎて面白味に欠けると思われるかもしれませんが、寒い冬に必要なタンパク質やビタミンをちゃんと摂取できているんです。
《湯豆腐や木と紙の家に住みてこそ》 瀧春一
「湯豆腐」の魅力を考えていたらこんな俳句に出会いました。今や木と紙の家に住む人こそ少なくなりましたが、心ではこの句に「そうだ!」と納得してしまいます。 簡素だけれどその中に秘めている味わいを楽しむ日本文化の真骨頂、それが「湯豆腐」の根強い人気の秘密なのかもしれません。