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長野県の諏訪湖で冬の厳しい寒さの中に起こる現象が「御神渡り(おみわたり)」です。全面結氷した湖面で南の岸から北の岸へかけて氷が裂け、盛り上って氷の堤ができます。堤の高さは30cmから大きければ1m50cmを超えるまでになるとのこと。湖を貫くようにできる氷堤の大きさにお諏訪様の力があってこそ、と感じませんか。
この氷堤の道を通ったのは諏訪神社南側の上社に祀られている男神の建御名方命(たけみなかたのみこと)。北側の下社に祀られている女神の八坂刀売命(やさかとめのみこと)のもとへ通ってくるのだ、といわれているのです。「御神渡り」ができると、地元の八剱(やつるぎ)神社の神官が「御神渡り」かどうかを認定する拝観式が行われるそうです。神さまが通られた氷の亀裂を見て、その年の農作物の出来や気候雨量、世の中の情勢の吉凶なども占われ、結果は公表されるとのことです。地元にとって大切な行事だとわかります。
「御神渡り」が出現するためには湖面が結氷した後の気象条件が重要なようです。厳しい寒さが続くことと快晴で起きる大きな放射冷却。その時氷の上面が収縮し亀裂が生じ、水が入り薄い氷となります。日中の気温が上がると氷が膨張し、両側から圧力がかかることで薄い氷が割れてせり上がり、氷の堤ができあがるとのこと。自然の中で静かに進行する現象ですが、出来るときは一夜にして轟音とともに大亀裂が生じ、裂け目に沿って氷が盛り上がっていくということです。現れる氷堤の姿は雄大ですね。
「御神渡り」ができるための絶対条件となる厳しい寒さも気候変動の影響でゆるんでいるのでしょうか、近年は出現することが減ってきているということです。出現しない年は「明けの海」と呼ばれ神前に奉告されます。直近では2018年に確認されたのを最後に「明けの海」が続いているのは寂しいことです。自然が作る「御神渡り」の現象あればこその、諏訪ならではの農作物や風習など守っていきたい文化があるのではと感じています。
今年はお諏訪様の神さまのロマンスの道は現れるでしょうか? 厳しい寒さは辛くとも「御神渡り」の出現を期待したいですね。
蔵王にスキーに行かれた方は幻想的な美しさに目を奪われたことでしょう。メディアでもしばしば紹介される「樹氷」は、氷点下の風に吹かれた霧粒が樹皮や地上にある植物、岩石などさまざまなものにぶつかり氷となって層をなしたもの。中に気泡を含むためか樹木の形をそのままに白くふわりと蔽って幻想的な光景を作りだしています。銀世界が作り出す寒冷地の特別な景観といえますね。
《オーロラは天の羽衣樹氷立つ》 澤田緑生
《樹氷林満開にして花ならず》 井村アイ子
蔵王に「樹氷」ができるのは、奥羽山脈の一部である蔵王連峰の気象条件と、アオモリトドマツ(オオシラビソ)という常緑の針葉樹が多く自生していることによるそうです。冬、遠くシベリアから渡ってくる季節風が日本海を渡りさまざまに変化し、蔵王連峰にぶつかりできる雪雲がさらにアオモリトドマツにぶつかることで「樹氷」はできるそうです。厳しい寒さと積雪の中で作られる「樹氷」はやはり自然の芸術としかいいようがありません。
長野県諏訪湖の「御神渡り」も山形県蔵王の「樹氷」も日本を代表する美しい景観です。どちらも厳しい寒さと降り積もる雪の中で、自然が作りだす奇蹟といえるでしょう。
現在心配なのは諏訪湖で起きている「御神渡り」の出現の減少と、蔵王では「樹氷」をつくるアオモリトドマツが虫による被害で広い範囲で枯れ死にしてしまっているということです。どちらも原因のひとつに気候変動、地球温暖化があげられています。誰もが心を痛める問題ですが、今の状況を見ることこそ、一歩前進するきっかけになるのではと思われます。
現地へおもむき「御神渡り」はどのようなものか、「樹氷」がどんな風に素晴らしいのかを、自身の目で見て体験できれば素晴らしいでしょう。実際に見ることで現状を知り、それらを守るために自分たちができることは何かを、考え、行動するきっかけとなるに違いありません。
「寒中」という冬の寒さが極まるときだからこそ気づけることもあるのですね。