- 週間ランキング
奇蹟のイチョウをご存じでしょうか? 関東大震災の中を生き抜いた1本のイチョウの木があります。それは今も堂々と枝葉を広げ、生き生きとした姿で皇居の東側にある大手濠緑地に立っています。
1923年9月1日に起こった関東大震災で、すべてが焼け払われてしまった中、このイチョウは高温の炎にさらされながらも翌年には芽を吹き、みごとに生きかえったのです。廃墟と化した東京で震災復興に立ち上がる人々を勇気づけたのが、この1本のイチョウの木だったのです。「震災イチョウ」と名づけられ、現在も大切に保護されています。
このイチョウの強さはどこから来るのでしょうか?
イチョウは桜やくすのき、ケヤキ、松など他の樹木に比べて葉が厚く水分が多いのが特徴ということです。葉に水分が多いということは、もちろん枝や幹も他の木よりも水分に富んでおり、木自身が燃えにくい性質をもっている、つまり火事には強いということです。
関東大震災をきっかけに火に強いイチョウの木が注目され、都市空間の街路樹として積極的に採用されるようになったということです。
参考:
『防災システム研究所-震災イチョウ』
各地に樹齢を何百年と重ねたイチョウの木があると聞きます。あなたの街にもそんなイチョウはありませんか? 大切に守られ生きながらえた木にはそれ相応の風格が具わり、神格化されていくのも納得がいきます。
しかし火に強い、ということから歴史的な大火災を生き抜いたという誇らしい話ばかりではないのが、生きている木の宿命といえるかもしれません。
歴史の中に登場するイチョウの木といえば、やはり鎌倉鶴岡八幡宮のイチョウが浮かびます。源実朝がイチョウの木の陰に隠れていた公暁に殺されてしまう、という歴史的事件ゆかりのイチョウの木ですが、残念ながら2010年の強風により倒れてしまいました。現在再生は伝えられていませんが、新たな芽吹きを期待したいところです。
新たな芽吹きから成長したイチョウの木を大切に守っているのが「銀杏城」とも呼ばれる熊本城です。2016年に起きた熊本地震により大きな損傷を受けましたが、昨年天守閣が復旧しました。加藤清正築城以来400年の歴史を誇るこの城には、加藤清正お手植えと伝わるイチョウがありました。残念なことに明治時代の西南戦争の直前に起きた火事で、天守閣や本丸御殿とともに焼けてしまいましたが、現在のイチョウは焼け跡から新たな芽が出て成長したものということです。150年近く経ち、立派な大イチョウに育っています。こういう姿にもやはり、頼もしさと同時に生きる力の不思議さを感じることができそうです。
参考:
<熊本城の歴史>
夏には緑あふれていたイチョウ並木が黄葉すると、その地域全体が黄金一色に染められたように感じます。これこそがイチョウの美しさの真骨頂ともいえるでしょう。落ち葉となって地面に降り積もった木々の葉も、一枚一枚を見るとどれをとっても同じ黄色。葉っぱ毎にその色合いの変化が楽しめる楓とはひと味違う美しさがあることに気づきます。
その秘密は夏のイチョウの葉の緑色にあるのです。緑色の色素は「クロロフィル」、これが夏の葉の色となっています。じつは秋の黄色となる色素「カルテノイド」も、すでにこの時葉の中には作られているのです。緑と黄色ふたつの色素を同時に持っていますが、秋になるまで黄色の「カルテノイド」は濃い緑色に負けて目立つことができないのです。
秋になり気温が下がり寒さに弱い「クロロフィル」が分解され消えていくと、黄色の「カルテノイド」の出番というわけです。黄色に変わるというよりは、緑がなくなり黄色が現れるというのがイチョウの黄葉の姿なのです。すべての葉を等しい黄色にしているのは「カルテノイド」色素というわけです。
〈金色のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり夕日の岡に〉与謝野晶子
イチョウ黄葉の迫力は圧倒的な黄色の集合体にあります。特に並木となったイチョウには、空のてっぺんから大地まで一気に黄金世界を作り出す神秘のチカラを感じます。11月も後半に入りイチョウの美しさがいよいよ増していきます。降りそそぐ葉の輝きを存分に楽しみながら、イチョウの木の生命力を感じにいきませんか。
参考:
<「秋の“黄葉”のしくみ」理数啓林 No.16>