8月に流星群を降らせたペルセウス座。秋には東の空高くに見られるようになります。ペルセウス座を見つけるには、W字型が特徴的で、誰もが見つけるのに容易なカシオペヤ座を目当てにするといいでしょう。このカシオペヤ、ペルセウスの義母にあたり、有名なペルセウス神話の登場人物でもあります。ペルセウス神話の登場人物たちが彩る星座は、済んだ秋の夜空の最大の見どころとも言えます。

カシオペヤ座の二つの山型の後ろ付近に、ペルセウス座とアンドロメダ座が


驕慢な美魔女カシオペヤ、神の怒りを買う。物語のはじまりは…

カシオペヤ座(Cassiopeia)は、肉眼星数は約150、そのうちW字型の線を結ぶ5つの主星は、α星、β星、γ星が二等級、δ星、 ε星が三等級と光度がほぼ揃い、高空にあるときには特にくっきりとその形を視認することができます。5つの主星が描くWの形は、星にそれほど詳しくない人でもよく知る星座ではないでしょうか。

北天の王者的なおおぐま座(北斗七星)とは、北極星(こぐま座)を円の中心にして、ほぼ真反対に位置します。ですから、春の夜空で北斗七星が高度高くに位置して目立つのに対し、秋にはカシオペヤ座が常に高空にあって、星空の目印となってくれます。そして、カシオペヤ座は、古代の半神半人の英雄ペルセウス(Perseus)にまつわる神話と大きくかかわっています。

カシオペヤ座の北極星寄りのすぐ隣には、並び立つように細長いとんがり屋根の家のような五角形のケフェウス座(Cepheus)が鎮座します。α星のアルデラミンのみが二等星で、他の星は比較的暗いため、よくよく見なければ星座の形は把握できませんが、多くの変光星を抱える独特の星座です。

このケフェウス座とカシオペヤ座は、ギリシャ神話によれば古代国家エティオピア(現在のエチオピアではなく、エジプトからヨルダン、カナン地方にかけて存在したと言われる国家)の王ケフェウスとその王妃カシオペヤが天に上げられた姿だと伝わります。

この王妃カシオペヤ、大変に驕慢な性格で、自らの美貌を鼻にかけるあまり、「(美しさで知られる)海の精であるネーレイウス(人魚)たちにも、私よりかわいい子はいないわね」と言ってしまったため、それを聞きつけたネーレイウスたちの怒りを買い、彼らの父・海神ポセイドンがその慢心を罰するために、エティオピア国の沿岸に津波を起こし、巨大な海獣を暴れさせて国民たちを苦しめました。ケフェウス王は海神の怒りを鎮めようと神殿でその方法を請うと、何と娘である王女・アンドロメダ姫を海獣の供物として差し出せ、という神託が。王は致し方なく、海岸の岩礁にアンドロメダを縛りつけ、海獣に差し出しました。そして今しも海獣が姫を喰らおうとしたそのとき、たまたまその場所を通りかかったのが英雄ペルセウスでした。

原型的英雄像のペルセウス。神々の助力で怪物メデューサを討ち取ります


元祖・RPG。数々のアイテムを得たペルセウスの怪物退治

その昔、アルゴス(ギリシャ南部のペロポネソス地方)の王アクリシオスは後継ぎの男の子に恵まれず、神託に問うたところ、「息子は生まれないが、娘のダナエーが男児をもうける。その子により御身は殺されることになる」というとんでもないもの(のちにこの予言は実現されることになります)で、恐れたアクリシオスは娘であるダナエー姫を青銅の牢獄に閉じ込めます。

しかし、(例によって)ダナエーを見初めたオリュンポスの主神ゼウスが、金の雨に変じて降り注ぎ、ダナエーは身ごもります。月満ちて男の子ペルセウスが生まれると、アクリシオス王は大いにおびえ、それでも娘と孫を手にかけることをはばかって、木箱に押し込めてエーゲ海に流してしまいました。木箱はセリフォス島に漂着し、島の領主の弟ディクテュスに助けられ、母子はこの島で生きることになります。
ペルセウスが長じて逞しい若者に成長したころ、領主のポリュデクテースが、ペルセウスの母ダナエーに懸想し、邪魔なペルセウスを排除しようと、怪物ゴルゴーンの首を取ってまいれ、と無理難題を命じました。
ゴルゴーンとは、原初の(オリュンポス神たちが世界を支配するようになる以前の太古の)海神ポントスと、同じく原初の大地の神ゲーの息子・娘たちとの間に生まれた三人姉妹の怪物で、頭髪はすべてヘビ、歯は猪の牙、腕は青銅で黄金の翼をもち空を飛び回り、その顔を直視した者をことごとく石に変えてしまうという、けた外れの化け物です。

到底達成できそうもないミッション。ペルセウスは居候の身ゆえに領主の命令にもさからえず、絶望のゴルゴーン討伐の旅に出ます。けれどもゼウスの息子であるペルセウスには、多くの神々の助力が待っていました。ゼウスの姫神アテナは、知る者のないゴルゴーン姉妹の居場所を唯一知るとされる怪女グライアイまで導き、やはりゼウスの娘で泉と川の精霊ナーイアスからは、妖力に満ちたゴルゴーンの首級を安全に収納できる魔法の袋キビシスをもらい受け、さらにゼウスの伝令であるヘルメスからは、それを被る者は誰からも姿が見えなくなる魔法の兜と、空を飛行できるサンダルを貸与され、ペルセウスはこれらの贈り物を身に着けて、ゴルゴーン姉妹のうち唯一不死身ではないとされる末妹のメデューサの首を討ち取ったのです。切られたメデューサの首から滴った血からは、翼のある天馬ペガサスが生まれました。メデューサは、海神ポセイドンの子を既に身ごもっていたためでした。

こうして母の待つセリフォス島に戻る途上、ペルセウスはカナンの海岸にしばりつけられ、海獣に飲み込まれんとするアンドロメダ姫を見かけたのです。
ペルセウスはすぐさまキビシスの袋からメデューサの首を取り出し、海獣につきつけました。海獣はたちまち石の塊となり、ペルセウスはアンドロメダを救い出します。そして姫の故郷へと連れ帰りますが、かわいらしいアンドロメダに一目ぼれしたペルセウスが、ケフェウス王に姫をもらい受けたいと申し出ると、以前からアンドロメダの婚約者であったケフェウスの弟ピーネウスは怒り、郎党をさしむけてペルセウスを殺そうとしました。ペルセウスは動じず、またも袋からメデューサの首を出し、ピーネウス一派を石にしてしまいました。

ペルセウスは煌びやかな武具を身に着けた華麗で知的なイケメンの英雄のイメージがありますが、半裸の肉体派であるヘラクレス(ペルセウスの孫になります)や、トロイア戦争の卓越した戦士であるアキレウス、智謀によって怪異を斥け切り抜けてゆくオデッセウスなど、よく知られた英雄たちよりも実は神話の起源が古く、この後も逆らう者にはメデューサの首、で解決する容赦なく原始的な性質を発揮します。原始時代の英雄像がうかがえ、興味深い神話伝承です。

メデューサのレリーフ。ペルセウス座の妖星アルゴルとして空に輝きます


ペルセウスが左手に持つメデューサの星・アルゴルをさがしてみよう

さて、この一連の神話、トレミー(プトレマイオス)はこの神話からペルセウス、アンドロメダ、ケフェウス、カシオペヤ、ペガサスと五つもの神格を星座に設定しました。
北極星(こぐま座)のすぐ隣のケフェウス座から、カシオペヤ座、ペルセウス座、アンドロメダ座、ベガスス座(ベガススの四辺形)と、天の黄道に接するところまでの広大な星域を、この神話劇の壮大な絵姿として設定しているのです。それほどペルセウス神話は、ギリシャ、北アフリカ、オリエントが融合したヘレニズム文明期からビザンティン文明期までの時代、きわめて重要視され、語り継がれてきた神話だったということなのでしょう。

この神話絵巻を夜空から見つけるには、やはり誰もが見つけることが容易なカシオペヤ座を目当てにするといいでしょう。アンドロメダ座はカシオペヤ座のすぐ右(左)隣、主役のペルセウス座(Perseus)は、アンドロメダ座のやや低い位置で隣り合っています。ペルセウス座は剣を持つ右手を高くつき上げ、左手は下におろして身構える戦士の姿です。α星は胸付近にあたる二等星ミルファク(Mirfak)。これを目当てにすると、近くには下ろした左手にあたるβ星アルゴル(Algol)が見つかります。これはペルセウスが左手に握ったメデューサの生首であると伝わり、怪異な食変光星として知られています。アラビア語の「人食い鬼の頭」の意味を持つこの星は、2.867日(2日と20時間59分)の規則正しい周期で、光度を著しく変える奇怪な変光星。その光度は極大光度2.1等星から極小光度3.4等星へと変化します。アルゴルは明るく輝く主星Aと、すぐそばにあるAよりも直径が大きいが暗い巨星である伴星B、この両星の外側を周る伴星Cとで構成される三重連星で、AとBの軌道は地球の自転角度とほぼ同じのため、周期的にどちらかの星が一方の星を隠します。最大光度のときは二つの星が並んで見えるとき、一方最小光度のときには暗い伴星Bが完全に主星Aを覆い隠しているときになります。この異様な変異を示す星は、天文年鑑でも最小光度の時間が記されるほどで、ギリシャ神話でも有数のインパクトを与えるゴーゴン(メデューサ)の星としてふさわしいと言えるでしょう。

既に夜半過ぎには上がってきている冬の星座オリオン座、そしてその上のおうし座の一等星アルデバラン、プレアデス星団(すばる星)と、順に北東を見上げて辿っていくと見つけやすいかもしれません。

アンドロメダ座の見ものであるアンドロメダ星雲(写真右上付近)を探してみましょう

(参考・参照)
星空図鑑 藤井旭 ポプラ社
ギリシア神話 呉茂一 新潮社

秋の北天の目印となるカシオペヤ座を目当てに壮大な神話絵巻を楽しんで

情報提供元: tenki.jpサプリ
記事名:「 ペルセウス座を中心に繰り広げられる秋の星空の神話絵巻を楽しみましょう