冬のお楽しみといって欠かせないのが「蜜柑」ではないでしょうか。部屋全体の暖房が当たり前になってきた現在では、もう珍しくなってしまったかもしれませんが、炬燵の真ん中にどんと置かれた「蜜柑」は色の明るさもあり、「おっ、蜜柑か、いいな」と炬燵に入って団欒に加わる和やかな雰囲気が浮かんできます。
また、なにげなく手にとる「落花生」は、小腹が空いたときや手持ち無沙汰を紛らわせてくれる絶好のアイテム。美味しいものがいくらでも手に入るご時世ですが、定番の持っている好さは穏やかなくつろぎを感じさせてくれることでしょう。


「蜜柑」の魅力は? 果肉が含む豊かな果汁、それから?

小さな子どもでもたやすく皮をむいて食べられるのが蜜柑の魅力。一房の中に詰まっている果汁が口の中にほとばしります。一口に一房、それぞれが思い思いに食べられるのも蜜柑の魅力。
「共に剥きて母の蜜柑の方が甘し」 鈴木榮子
「蜜柑吸ふ目の恍惚をともにせり」 加藤楸邨
誰かと一緒に食べるのも蜜柑の楽しさ。共に時を過ごす甘やかな心地やスリリングな気分もまた、蜜柑の味や香りの中に秘められているようです。
「蜜柑」で注目したいのはなんといってもビタミンを多く含むことでしょう。ビタミンAやCは抗酸化力を持ち、病気を予防の働きをするといわれています。冬場に不足しがちなビタミン類を補う意味でも蜜柑を食べることは、誰にでも簡単にできる健康法といえそうです。
「蜜柑」が薬として使われていることをご存じでしょうか。それは皮です。黄色く熟した蜜柑の皮を天日で乾燥させると「陳皮」という生薬になります。精油成分として皮に含まれているといわれるリモネン・フラボノイド・クエン酸などが、健胃剤として漢方薬に配合される場合が多いそうです。
食べ終わった後の蜜柑の皮は家庭でも有効に使われていました。晒し木綿の袋に蜜柑の皮を入れて湯舟に浮かべ揉み出します。皮に含まれる精油成分が溶けだし入浴剤となって、香りを楽しみながら身体を温め冬を乗り越える助けの役目を果たしてくれそうです。


炬燵でぬくぬくと、もう一つのお伴はついつい手が出る「これ」かしら?

冬の栄養を補うという意味では「落花生」も「蜜柑」に負けない魅力があります。夏に咲いた花が落ちると子房が下に伸び、土の中に入り込んで実となることから「落花生」といわれます。原産地は南アメリカですが日本へは中国を経由して入ってきたので「南京豆」「唐人豆」とも呼ばれてきました。
栄養価は高くおよそ脂質が約50%、タンパク質が約25%含まれているそうです。さらに脂質はコレステロール値を下げる不飽和脂肪酸のオレイン酸とリノール酸など良質なものが含まれていることから、栄養補給源として頼もしい存在といえそうです。
落花生の魅力の一つは莢に入っていること。楕円形で真ん中がくびれ、縦に入った線の間を結ぶ網目模様が落花生の特徴です。煎って乾燥した莢をパチンと割れば落花生が二つでてきます。莢のついた落花生をひとつかみ、ポケットに入れて遊びに行ったことはありませんか。ちょっとひと休みしてみんなで食べる、なんていう楽しみ方もありました。
「落花生喰ひつつ読むや罪と罰」 高浜虚子
「論つきず落花生のみ散乱し」  浅野右橘
本を読みながら、話をしながらつまむ落花生がそのひと時を豊かにしているなぁと感じる俳句です。困ったことについつい尾を引いて食べ過ぎてしまう、というのが落花生が持つ問題でもあります。栄養価が高いことをしっかり心において、お楽しみで食べる時はそこそこにしておくように気をつけたいですね。


どちらも冬の団欒が似合います

冬のくつろぎの空間を思い浮かべてみると、炬燵にひと山の蜜柑がのっている図となります。テレビを見たり本を読んだりとそれぞれが勝手なことをしながらも、何となく蜜柑が減っていき誰かが出してきた落花生の殻がそこら辺に散らばっていたり、いつの間にかみんなのおしゃべりが花開いて賑やかになっている。このような絵が浮かんでくるのは、暖かさを中心に人が集まるのがあたりまえだった時の名残でしょうか。
暖房がいき届きどこにいても暖かい今の住宅では、このような光景も見られなくなってきたかもしれません。それでも皆で一緒に、あれこれおしゃべりをしながら何かを食べる楽しさに変わりはありません。「蜜柑」も「落花生」も冬場の栄養を補うだけではありません。穏やかなくつろぎと団欒の場があってこそ存在価値を発揮するもの、そんなふうに感じませんか。
「蜜柑むくはてこんなことしてゐては」 星尾麥丘人
ひとりで食べても美味しい蜜柑ですが、今日は誰と一緒に食べましたか?

参考:
文部科学省<食品成分データベース>
小学館『日本国語大辞典』
『ブリタニカ国際大百科事典』

情報提供元: tenki.jpサプリ
記事名:「 「蜜柑」に「落花生」みんなで食べると楽しくなる冬籠もりの定番です