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天球上の太陽の一年の移動ライン=黄道に沿って連なる星座を黄道十二星座と呼び、その星座の連なる帯を十二獣帯、英語ではzodiacと呼びます。主に星占いなどで頻用されるため、十二星座の名前自体を知らない人はほとんどいないのではないでしょうか。
にもかかわらず、夜空を見上げて「やぎ座ってどれ?」「かに座はどこにある?」と尋ねられて、答えられる人はごく少数なのではないでしょうか。自分の生まれた星座のかたちや見える時期を、わかっていない人が多いかもしれません。
黄道は、天の川と同じように地球をリング状に取り巻いていますから、私たちが夜空で見られるのは、そのリングのどこかの一部にすぎません。見ることのできない部分は、太陽の出ている昼間に、昼間の空にかき消されて巡っていて、見られる部分は季節ごとに一年かけて移動しながら一周していきます。
黄道を移動している太陽の背後にある星座が見えないということは、その対極に位置する星座が夜に見られるということになります。冬至に近い今の時期、太陽はいて座を背後にした位置にあり、その対極はふたご座になります。したがって、真昼前後の南中の時間の対極となる真夜中には、冬の星空はふたご座を中心にして、右サイド(西方角)におうし座、おひつじ座、うお座が、左サイド(東方角)にはかに座、しし座、おとめ座が見られるのです。
黄道のリングは、地球の公転周期に対する地軸の傾き(自転の傾き)によって、四季によりラインの位置が変わります。天空高くに見える時期ほど鮮やかに獣帯は見事な行列を見せてくれますが、黄道のリングが天空高く(急角度)にあるのは、春は日没頃、夏は真昼、秋は日の出頃、そして冬は真夜中になり、冬の十二獣帯はもっとも澄んで暗い高い空に掲げられて巡るために鮮やかで感動的なものです。
十二星座とはいうものの、星座の大きさ(空に占める範囲)や存在感(構成する星の輝度やかたちのわかりやすさ)には格差があります。
冬に見える星座では、まずオリオン座の斜め右上にあって、一等星アルデバランやプレアデス星団を有する雄大なおうし座はわかるものの、その隣のおひつじ座、うお座はよくよく目を凝らさないとなかなか見つけられません。そしてこいぬ座の近くにある印象的に並ぶポルックス、カストルの二つの一等星(カストルを一等星とはしない場合もあります)が仲良く並んだ姿ですぐわかるふたご座、春の星空の主役級であるしし座が、東の空から駆け上がるように上ってくる姿はともに印象的です。その間に挟まれたかに座もなかなか見つけづらく、ふたご座のポルックスとしし座のレグルス、二つの明るい星を目当てに、その間の星空にさがしあてることができます。
これらの星座は、夏には太陽の背後付近に回って、夜には見られなくなります。日の出や南中、夕焼けの太陽を見ながら「今あの太陽の後ろにあるのはどの星座で、その右と左には…」とイメージ想起することで、私たちは生き生きとした黄道十二宮のつながりを実感できるようになり、そのリズミカルな動きを体験できるようになります。
このように冬の夜空に存在感を発揮するふたご座ですが、もしわからない場合は、オリオン座の赤い星ペテルギウスと、こいぬ座プロキオン、おおいぬ座シリウスの冬の大三角と、おおぐま座の北斗七星の間付近の輝く二つの星と記憶しておいてください。
毎年この時期、ふたご座のα星カストル付近を中心に、放射状に展開されるのがふたご座流星群です。ピークには一時間に30個以上の流れ星が見られ、しかも一晩中見ることのできる大規模な流星群です。
ふたご座は1世紀から2世紀の博物学者トレミー(プトレマイオス Κλαύδιος Πτολεμαῖος, Claudius Ptolemaeus)により設定された47個の星からなる星座で、こいぬ座プロキオンの斜め右上に、西洋棺か姿見の鏡のような細長い方形の外観をなし、「ふたご」のそれぞれの頭にあたる右のα星カストル、左のβ星ポルックスの輝く両星でそれとすぐわかります。古くはバビロニアでは両星を最高神マルドゥークと書記と知恵の神ナブーの化身としました。そこから二つの胴体と手足に見立てた星をつなげて、兄弟が仲良く肩を組み、あるいは向かい合うように並んだ姿がイメージされます。
オレンジ色の一等星ポルックスは特に目立ちますが、独特なのは青白い光のカストルで、地球からは52光年、なんと六重連星という複雑な構造をもつ天体です。倍率の低い望遠鏡でも、カストルが二つの光に分かれて見えるのは確認できますが、この主星と伴星の二つの星がそれぞれに伴星をもつ二連星で、さらにこの二つの二連星の周りを、やはり主星と伴星をもつ二連星が周回しているのです。双子どころか六つ子かい!とつっこみたくなる奇妙な天体ですが、そんなふたご座にまつわる神話もまた奇妙なものです。
カストルとポルックスに該当するカストールとポリュデウケースの父はオリンポスの最高神ゼウスで、「ゼウスの息子」の意をもつディオスクーロイ(Διόσκουροι)と呼ばれています。スパルタ王の王妃であったレーダーを見初めたゼウス。不倫の際の常套手段である動物への化身をし、白鳥の姿でレーダーのもとに通い、やがてレーダーは二つの卵を産み落とします。カストールとポリュデウケースは一つの卵から生まれ出て、もう一つの卵からはヘレネーとクリュタイムネストラーという姉妹の双子が生まれます。世界中の神話に見られる卵生神話の一つですが、これほど双子のモチーフが繰り返し登場するのはめずらしいかもしれません。
兄カストールは人間である母親の血を受け継ぎ、死ぬ宿命の人間として、弟ポリュデウケースは、神である父ゼウスの血を受け継いで不死でした。
二人は武芸の技に秀でた若者に成長しますが、品行方正とは到底言いがたい、やんちゃが過ぎる若者たちで、やはり双子の不良仲間と四人でつるみ、婚約者のある娘たちを略奪誘拐したり、牧場の牛を強盗した挙句、分け前で争いになるなど、ハチャメチャな行動を繰り返します。一方で他国に略奪された姉妹のヘレネーや宝物である金の羊の毛皮をスパルタに奪い返すなど、いわば族長時代の英雄像とも言っていいでしょう。
しかし、牛の分け前で争いになった双子と再び争いとなり、その決闘で、二人は勝利しますが、兄カストールはその際に流れ矢に当たって命を落としてしまいました。ポリュデウケースの喪失の嘆きはすさまじく、家の中の兄の遺物、景色の中に思い出される兄の姿、ひとつひとつに涙を流して悲嘆にくれ続けます。そして遂に父神ゼウスに、不死の体を返上するから、自分も兄と同じ場所に送ってくれと嘆願しました。ゼウスはその願いを聞きいれ、兄弟を空の星座にし、冬の夜空では空に、夏には冥界に、永遠に離れ離れにならないようにした、ということです。
兄弟とは言いつつも、この二人には著しい寿命の差があり、実際には別の生き物。現代に当てはめますと、人とペットの死別の物語にも見えてきます。
あきれるようなヤンキー系ブラザーの蛮行の連続と思いきや、最後にほろりとさせられるなど、はじめから終わりまで予想を裏切り続ける奇妙な神話ですが、筆者は個人的には好きな物語です。ふたご座生まれの人は二面性や意外性をもつと言われますが、それにふさわしいようにも思えますがいかがでしょうか。
その奇妙な星カストールを放射点にしたふたご座流星群も、14日のピークを境に、20日ごろに見納めとなります。
しかし、流星群の衰えと入れ替わるようにレナード彗星(Leonard C/2021 A1)が17日ごろから年末にかけて、最大光度となると見られています。2021年の1月3日に発見されたほやほやの彗星で、2022年の1月3日に太陽に最接近します。
年末までの夕方、西南の低い位置にこの彗星を見られるかもしれません。宇宙からのクリスマスプレゼントかもしれませんね。
参考・参照
星空への旅 エリザベート・ムルデル みくに出版
星空図鑑 藤井旭 ポプラ社
見られるのはいまだけ レナード彗星 観測のチャンスは年末までの夕方 | 社会 | 新潟県内のニュース | 新潟日報モア