梅雨の季節を彩る花、紫陽花。日本が原産であり、庭先や公園で見かけるごく身近な存在ですね。全国に「あじさい寺」が点在するように、お寺の境内に咲く古風なイメージもあります。一方、ヨーロッパに渡った紫陽花は、「東洋のバラ」ともてはやされ、熱狂的な愛好家を生み出しました。
今回は、海を渡って人々を魅了し、日本に逆輸入されて脚光を浴びている紫陽花の魅力を紐解いてみましょう。


「紫陽花」はアジサイではない?花に見えるけど、花ではない!?

紫陽花は、アジサイ科アジサイ属で日本原産の植物。現在、日本の在来種は「ガクアジサイ」「ヤマアジサイ」と呼ばれ、一般的に紫陽花と呼ばれている品種は逆輸入された「西洋アジサイ」になります。小さな花がたくさん集まって咲いているよう見えますが、花に見える部分は花弁を支える萼(ガク)。本来の花は、萼の奥にある小さく色づいた部分です。
和名の「アジサイ」は、「藍色が集まったもの」を意味する「あづさい(集真藍)」が、時の流れとともに転訛したものといわれています。アジサイの学名は「ハイドランジア(Hydrangea)」。ギリシア語の「hydro(水)」と「angeion(器)」に由来します。「水の器」を意味する名前は、雨の季節に咲く紫陽花にぴったりですね。
漢字の「紫陽花」は、中国の寺院にあった花に唐の詩人白居易が付けた名前でした。平安時代の学者で歌人の源順(みなもとの したごう)が、その花を日本のアジサイと同じものと考えて、この漢字をあてはめたとされています。実際にはアジサイと別の花だったようですが、日本では現在まで「紫陽花=アジサイ」として受け継がれているのです。


七変化する色と、多彩な花言葉

しっとりとした青い色が印象的な紫陽花ですが、土壌の性質や開花からの日数によってもさまざまな色に変化します。花の色はアントシアニンという色素によるもの。土壌のpH(酸性度)によって色が変わり、酸性なら青、アルカリ性なら赤になるといわれています。日本の土壌は弱酸性が多いため、青や青紫の色になりやすいようです。
また、開花から日が経つにつれて徐々に色が変化し、最初は花に含まれる葉緑素の影響で薄い黄緑色、それが分解されていくとともにアントシアニンや補助色素が生合成され、赤や青に色づいていくのです。さらに日が経つと有機酸が蓄積されて青色の花も赤味を帯びていきます。
そのため、季語での紫陽花の別名は「七変化」。変化する色は「移気」「浮気」といった花言葉にも反映されています。花がぎゅっと集まって見える様子から、「家族団らん」「和気あいあい」など、あたたかみのある花言葉もあります。色別では、ピンクは「元気な女性」、青は「辛抱強い愛情」、白は「寛容」。紫陽花の多彩なイメージから、さまざまな花言葉が存在するのですね。


ヨーロッパで見出された、紫陽花の美

日本古来の植物であるにもかかわらず、万葉集に詠まれている紫陽花の歌は2首のみ。人気の高かった萩と梅がそれぞれ140首と120首、桜が40首あることからも、紫陽花は古の人々にあまり注目されていなかったことがうかがえます。江戸時代になって松尾芭蕉が詠むまで、日本の古典文学にはほとんど登場していないのです。
紫陽花に美を見出し賞賛したのは、日本人ではなくヨーロッパの人々でした。西洋に紫陽花を伝えた代表的な人物が、鎖国時代に来日していたドイツ人医師のシーボルト(1796〜1866年)です。彼は紫陽花を愛し、著書『日本植物誌』のなかでも紹介しています。ヨーロッパに渡った紫陽花は「東洋のバラ」ともてはやされ、各地で品種改良が行われました。やがて、「ハイドランジア」(西洋アジサイ)として、日本に逆輸入されることになるのです。
庭木のイメージが強かった紫陽花ですが、鉢植えや切り花として店頭で見かけることも多くなりました。紫陽花の品種改良は盛んに行われており、薄いピンクに黄緑が入った色、茶色がかったくすんだ色など、洗練された色合いの花も出回るようになりましたね。切り花として多く店頭に出回るのは5~6月。秋口にかけて出荷される「秋色アジサイ」は、シックな色合いが魅力です。毎年のように新種が登場するので、珍しい紫陽花を探してみるのも楽しみのひとつです。

最後に、印象の違いに驚くこと間違いなし!の、ヨーロッパ映画に登場する紫陽花をご紹介します。
◆高級ホテルと紫陽花
『ベニスに死す』(1971年・イタリア)
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
主人公の作曲家が滞在するリド島の高級ホテル。鉢植えや大きな花瓶に生けられた紫陽花が、ロビーや廊下にあふれています。豪華でどこか退廃的な存在感に引き込まれます。
◆ヴァカンスと紫陽花
『海辺のポーリーヌ』(1983年・フランス)
監督:エリック・ロメール
舞台は真夏のノルマンディー。ヴァカンスに訪れた15歳の少女ポーリーヌが滞在する別荘の庭に咲く、生命力あふれる紫陽花。太陽の光が似合う力強さに、紫陽花のイメージが一新されます。

参考サイト
みんなの趣味の園芸
神戸市立森林植物園 あじさい情報センター
日比谷花壇

情報提供元: tenki.jpサプリ
記事名:「 紫陽花の魅力を再発見!ヨーロッパで見出された「東洋のバラ」