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立冬の初候は「山茶花開(つばきはじめてひらく)」となっていますが、「山茶花」は「つばき」ではなく「さざんか」のことです。椿の漢名「山茶(さんさ)」に「花」をつけた「さんさか」が変化したものと言われています。
とても似ているので昔からよく混同されてきたのですが、花ごとポトリと落ちるのが椿、花びらがはらはらと散っていくのが山茶花と言われています。濃い艶のある緑の葉に赤い花、中には黄色の蕊と、色合いのはっきりとした山茶花の花は明るい活気をもたらしてくれます。
童謡「たきび」は、集めた落ち葉でおこした焚き火をみんなで囲んでいるようすを歌っていますが、そこは山茶花の花の咲いた道です。11月ともなれば北よりの風も吹き始めるころですから、みんなでわいわいと囲む焚き火は楽しい思い出だったことでしょう。今はもう街中ではできない焚き火の名残を山茶花に感じたいですね。
木枯らし1号が吹き始めるのも「立冬」の頃。明るい山茶花もやがて冷たい風に花びらを散らすと一歩、冬があゆみを進めていきます。
次候は「地始凍(ちはじめてこおる)」です。大地が凍り始める「霜柱」が立つ時期と歳時記は伝えています。
寒い冬に向かっていく厳しさは土の中に潜んでいます。地中に含まれる水が寒さで凍り、地表を持ち上げて出来るのが霜柱。朝うっすらと白く地面が持ち上がっているのを見つけると、とうとう冬になったんだ、と実感させてくれるのがこの霜柱。
子供の頃は学校に行く途中に霜柱を見つけると、ザクザクと踏みながら柔らかく潰れる土の感触を音と一緒に楽しんだものでした。やがて融けるとぬかるみになってしまい、大人たちにとっては難儀だったことでしょう。
こんな霜柱が立つような寒さの中、庭石の横などによく植えられているのが石蕗(つわぶき)です。艶葉蕗(つやはぶき)が語源らしいのですが、葉が蕗に似ていて艶々しているからでしょうか。緑の葉にパッと目を惹く黄色い花が鮮やかです。冬の初めに輝く花は喜びですね。
水仙のことを「金盞花」または「金盞銀台(きんせんぎんだい)」と言うのをご存知ですか。末候は「金盞香(きんせんかさく)」です。
「金盞」とは金の盃のことで水仙の真ん中の黄色い部分を、「銀台」とは白い花びらをさしてこのように豪華な名前がつけられていますが、見た目は清楚なイメージではないでしょうか。こんな句をみつけました。
「水仙や香こぼれても雪の上」 千代女
千代女は「朝顔につるべ取られてもらい水」の句でも有名な江戸時代の女流俳人です。雪の中で香りたかく咲く水仙の美しさが放つ香りとともにみごとに表現されています。水仙は別名を「雪中花」とも呼ばれています。
冬の入り口「立冬」を迎えましたが、冬の初めには春を思わせるような暖かい気候の「小春」があります。「小春風」「小春日和」と陽だまりの心地良さを表したことばのなんと温かいこと。本格的な冬を前に用意された自然のやさしさは、寒さに向かって明るく色鮮やかに咲く花が多いところにも感じませんか。木枯らしが葉を落としていくこんな時でも花の美しさを楽しめるなんて嬉しいですね。あなたの身の回りにもきっと彩り豊かな花が咲いていることでしょう。