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桜の開花を毎年いまかいまかと待ちわびている方も多いと思いますが、“花の命は短くて”のフレーズがあるように、一年でたった一週間ほどの見ごろしかありません。
そこで今回は、桜にまつわる季語をご紹介。日本人にとって、限定・レア感・美しさに、いにしえから魅了されてきた理由とは? 桜を花と呼ぶのはなぜ?など桜づくしで調べてみました。
古語では「桜」のことを「花」と呼んでいます。花はたくさんあるのに、なぜ?と思われることでしょう。けれども、『古今和歌集』の時代からこう呼ばれてきたのです。
この場合の桜は「山桜」を指しますが、平安時代前には、「花」は「梅」のことでした。平安時代、時の“桓武天皇”が山桜を御殿に植えられたのが始まりといわれ、その後“蘇我天皇”のころから観桜の宴が行われたといわれています。次第に「花」は「桜」という観念が定着していきました。
一般の庶民が桜を鑑賞できるようになったのは江戸時代から。17世紀前半に江戸に多くの桜が植えられたそうです。中でも、山桜系統の大島桜と彼岸桜の交配種「染井吉野」は、駒込の植木屋“駒込染井”が売りだして一大ブームとなり、明治以降全国に広がっていったそう。今でも駒込の駅前には、“染井吉野発祥の里”の記念碑が立てられています。
その後、染井吉野は欧米諸国にわたり、“ジャパニーズ・チェリー”として親しまれていますし、桜は花の鑑賞以外にも、樹皮を使った工芸品や葉の塩漬けなど、余すことなく利用されています。
また、世界的に見ても日本ほど多くの種類の桜を育てる風土はないそうですよ。ちなみに、現在の桜の種類は600種ほどあるそうです。
桜の開花は毎年違いますが、近年は全体的に早くなっているようですね。しかし、花が咲いているだけが桜ではありません。実は最初から最後まで味わい尽くせるのが桜なのです。そんな桜の季語をリレーでお送りしましょう。
冬の間眠っていた「桜の芽」も、気温の上昇とともに次第に膨らんできます。日ごと大きくなる芽は蕾(つぼみ)となり、花が咲く前から枝全体がピンク色に。
そして開花。初めて咲いた桜を「初桜」、「初花」と呼び特別な瞬間を喜びます。
桜はそれぞれのシチュエーションで楽しみます。朝に見る「朝桜」、夕方に見る「夕桜」、夜に見る「夜桜」など。
桜の種類はどうでしょうか。
お彼岸頃に咲く「彼岸桜」、姿が美しい「枝垂れ桜」、ソメイヨシノより一足遅い「八重桜」、奈良の吉野山が代表の「山桜」。時期や場所を選んで鑑賞できるのも日本ならではですね。
いよいよ七分咲きになった辺りで桜は見ごろとなり「花盛り」を迎えます。まるで周辺が明るくなったような「花明り」、空との境が見えなくなるような「花朧(おぼろ)」、花を濡らす「花の雨」。「花の雲」は、堤などに連なる桜が雲のようだという意味で、上から見たドローン映像のよう。
桜には青空が似合いますが、時に曇りばかり続くこともあります。それを「花曇(ぐもり)」、咲いてから気温が低く散るのを遅らせる「花冷え」、「養花天(ようかてん)」なども。
さて、桜の楽しみといえば「花見」ですね。
「花筵(むしろ)」を敷き、お洒落な服「花衣(ごろも)」を着て行う「花の宴(えん)」で最高潮を迎え、ついに今年の桜ともお別れです。
「散る桜」、「飛花」、「落花」、「花吹雪」。散り際、散ったあとまで美しいのが桜ですが、散った花びらを「花の屑(くず)」、水に浮かんだ花びらを「花筏(いかだ)」と呼び、最後まで愛でるのです。
青森の弘前公園の花筏は、一生に一度は見たい絶景といわれています。
これで終わりでしょうか? いいえ、花びらの散ったあと散るものがあります。
「桜蘂(しべ)降る」は、桜の萼(がく)が散り地面を赤く染めること。最後まで桜をいとおしむ感性が生み出した言葉ですね。
今回ご紹介した季語は桜の代表的な季語に過ぎません。けれども、桜に対する日本人の美意識や、桜を「花」と呼ぶにふさわしい絶対王者の存在感が桜なのではないでしょうか。
──言葉や漢字の成り立ちを知ることは、日常生活に膨らみを持たせてくれるはず。
桜との出会いは一期一会といわれています。過去には、たった3日で散った桜や、10日以上散らない桜もありました。どんなシチュエーションで見るのか、誰と観るのか、今年の、この時の桜を、どうか堪能できますように。
(参照:俳句歳時記(春~新年) 角川学芸出版 角川文庫/入門歳時記 大野林火・著 角川学芸出版/広辞苑)