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・大楠に諸鳥こぞる雨水かな
〈木村蕪城〉
諸鳥(もろどり)とは、楽しい表現ですね。多様な鳥が集まり、元気に囀って春を迎えている様子が浮かびます。
・切株の芯のくれなゐ雨水かな
〈志賀三枝子〉
温(ぬる)んできた水分を吸収した、新しい切株でしょうか。鮮やかな描写が、新しい春の彩りを告げています。
・落ちてゐし種ふくらめる雨水かな
〈滝沢伊代次〉
積もった雪が解けて土が潤い、草木の芽が出始める頃。立春から15日目の雨水は、農耕の準備を始める目安でもあります。ひとつの季語から、大いなる自然の生々流転が広がりますね。
・鉢物のさっと水吸う雨水かな
〈佐藤一城〉
関東などではこの頃に雪やみぞれが散らつく日もありますが、冬を経て乾燥した鉢の植物には、恵みの水となります。
・薩埵(さった)富士雪縞あらき雨水かな
〈富安風生〉
薩埵峠は、静岡市東部の興津と由比の間に位置します。旧東海道の難所および名勝地として知られ、安藤広重の東海道五十三次「由井」にも登場。ちなみに興津は、遊歩道の薄寒桜も有名です。見頃は雨水より早い2月10日頃でしたが、例年1月下旬~2月下旬が開花期間となっています。
・春めきてものの果てなる空の色
〈飯田蛇笏〉
雨水と同じ時候の季語は他に、「冴返る」「余寒」「春寒(はるさむ)」「春めく」などが並びます。こちらの句では、「春めきて」で高まった期待感が「ものの果てなる空」と突き放され、まさにこの時分の天候の変化そのもの。それでも冷たく重い空の下では、春がゆっくりと胎動しているのでしょう。
逆説的ながら力強く、余白の大きい句を最後にご紹介しました。年度末を迎え慌しい時期ですが、春の本番まで風邪などひかぬよう、元気に過ごしてまいりましょう。
【句の引用と参考文献】
『新日本大歳時記 カラー版 春』(講談社)
『カラー図説 日本大歳時記 春』(講談社)