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旧暦2月は「如月(キサラギ)」と呼ばれ、新暦の現在でも、2月の別名として用いられています。「如月」は「衣更着」とも書き、この月はまだ寒く衣を更に重ね着するから、こう呼ばれるようになったとか。
「如月」といえば西行の有名な歌が思いだされますが、その西行に思いを馳せ、伊勢市宇治にある神路山を越える2月17日に芭蕉が詠んだ一句は、
はだかにはまだ衣更着のあらし哉
衣を脱いでしまうには、まだ寒すぎるというのがおおまかな意味なのでしょうが、この句のベースは、西行ゆかりとされる説話集「撰集抄」に出てくる増賀聖人にまつわる伝説。伊勢神宮に参拝後に名利を捨てよというお告げを受けた聖人が、衣服を脱ぎ捨て裸になったという話が衣更着とかけられ、面白みを醸している気がします。
如月の由来はほかにも、草木の芽が張り出す月「草木張月」。去年の秋に雁が来たうえに燕が渡って来だす月「来更来」。陽気が更に来る月「気更来」。などなど諸説あり、語源にあれこれ思いを馳せるのも楽しいものです。
2月3日は、鬼は外、福は内と豆をまく「節分」。そして2月4日は、春のはじまりとされる「立春」です。
春が立つと書いて、立春。この「立つ」という言葉の意味については、かの柳田国男によると、今まで存在しなかったものが忽然と姿を現す様子をあらわしているのだとか。一日を「ついたち」と読むのも、新月がはじめて姿を現す日だから。八雲立つ、霞立つ、夕立、虹が立つ…など、「立つ」という言葉には、壮大な自然の現象が現れることに、いにしえの人々が神秘を感じた思いが宿っているようです。
まだまだ寒いなか、暦の上だけでも立春からは春となります。降り注ぐ陽の光に、薄く張った氷に、咲きほころぶ花に、春の兆しを日々見つけて過ごしていきたいものですね。
如月の別名の一つに挙げられるのが、「梅見月」です。百済の帰化人王仁が、仁徳天皇の即位を祝って詠んだといわれる有名なこの歌に出てくる花とは、その梅の花なのだそう。降り注ぐ陽光に励まされるように丸く蕾をふくらませ、次々と開いていく梅の花。ゴツゴツと力強い枝からは想像できない可憐な花の風情と、すっと漂う香りが、春遠からじと願う人の心を弾ませ、ほほえませます。
東風が吹き、鴬の初音が響くまで、あともう少しのしんぼうでしょうか。これからまだしばらく降る雪が織り成す白い風景のなか、ぽっ、ぽっと目にも鮮やかに咲く紅梅の花の姿に、気持ちも少しずつ晴れ晴れと明るくなっていくような。そんな如月となりました。