2006年、トリノ五輪ハーフパイプ競技に出場した伏見知何子さん。選手を引退した後は、スノーボードスクール「STEP7」校長として、多くの人々にスノーボードの魅力を伝え、的確なコーチングで上達へと導いています。そんな伏見さんが、今季、舞子スノーリゾートにキッズ専用のスノーボードスクールを開校しました。遊んでいるうちに必要なスキルや想像力が身につくスクールの秘密とは? 4歳のお子さんを抱えながら、日本のスノーボード界の発展に尽力し続ける伏見さんにお話を伺いました。


子供のやる気を引き出すスノーボードアカデミー開校!

編集部:まず、伏見さんが今季オープンさせたキッズ専門のスノーボードスクールについて聞かせてください。どんな特長があるんですか?

伏見さん:特長のひとつは“ヒキダスエリア”という広大な専用エリアで行うこと。やっぱり一般のお客さんがたくさん滑っているゲレンデは、レッスンに適しているとは言い難いんですね。安全が確保されているエリアであれば、リラックスして自由に過ごすことができます。

それから、このエリアには、独自に開発した業界初のアイテム“ヒキダスアイテム”があって、子供たちが「あれやってみたい!」「これやってみたい!」と思えるような仕掛けになっています。私は、この「やりたい」という気持ちが子供にとっては一番大切だと考えていて、その気持ちさえあれば、技術はどんどん習得できるんですね。

ヒキダスアイテムには、つかまってくるくる回ったり、ジャンプしたりしているうちに、自然とスノーボードに必要な技術が習得できるような仕組みがあります。やりたいことを楽しくやっているうちに、自然と技術が引き出されて習得できている。それがこのアカデミーの大きな特長になっています。

編集部:先ほど、レッスンの様子を拝見したのですが、子供たちが「次はあれがやりたい!」と大きな声でコーチに言っている姿が印象的でした。

伏見さん:レッスンでは雪上に出る前にまず室内でブーツを履いたまま、準備運動をします。でんぐり返しをしたり、トンネルをくぐったり、バランスボードに乗ったり…。コーチはこの時、遊びながらひとりひとりの運動能力をチェックしています。筋力がどのくらいあるのか、ひきつけが強いか弱いか。そして、それに合わせてセッティングを調整します。

これ、私たちは「魔法のセッティング」って呼んでいるんですけど、子供の体に合わせてスタンス幅や角度を微調整するんです。体に合ったセッティングだと思うようにボードが動いてくれるので、上達が早いのはもちろんですし、つまづきがないので、子供たちも自然とやる気になってくれるんです。

編集部:そんなところにも、子供のやる気を引き出す秘密があるんですね。

伏見さん:そうなんです。ひとつひとつ調整するのはたいへんですが、その準備をしているかどうかで雪上での動きが変わってきますから、私たちもこだわってやっています。

独自開発の“ヒキダスアイテム”で子供のやる気を引き出す!


スノースポーツの魅力は、自然環境から多くのこと学び、対応力を育てられること

編集部:伏見さんのスノーボードとの出会いはいつだったんですか?

伏見さん:21歳、大学生の時です。最初にスノーボードを体験した時、ちょうど前の日に大雪が降って翌日は快晴、という環境だったんです。雪はパフパフで転んでも痛くないし、寝転ぶときれいな青空が見えて…。こんなに楽しくて気持ちいいスポーツがあるなんて最高だなと思って、その時にスノーボードをやろうって決めました。天候に恵まれたことが大きかったと思うので、ラッキーだったなって思います。

編集部:21歳で始めてオリンピック選手にまでなれたんですね! スノーボードに出会うまでは、どんな将来を思い描いていたんですか?

伏見さん:私はもともと高校の教師になるつもりで大学に行きました。国語の教師を目指していたので、大学では国文科を専攻して…。片親だったこともあって、奨学金をもらって大学に行っていたんです。この時代はまだ教職に就くと奨学金の返済が免除されていたので、それを見込んでいたんですが、結局、教師になる夢を捨ててスノーボードの道に進みました。決めた時はまだハーフパイプっていう競技があることも知らなかったですし、プロになる意識もなかったので、いま思えばよく親が納得してくれたなと(笑)

編集部:それまでスポーツ経験はあったんですか?

伏見さん:ほとんどないんです。私は団体スポーツが苦手で、理不尽な上下関係も理解できなかったので部活動もしていませんでした。それでも2年でプロになれたのは、スノーボードだったからかもしれません。バランス競技なので、体が小さいほうが安定しますし、もともと脚力はあるほうだったので…。

ハーフパイプを始めてからは、大会で成績を出すことにハマって、とにかく結果を出すことにこだわっていたので、ランキングもどんどん上がっていきました。ソルトレイク五輪の時は、次は自分がオリンピックに出場するんだってイメージしながら観ていました。

編集部:教える立場になったいま、改めてスキー、スノーボードの魅力はどこにあると思いますか?

伏見さん:やっぱり自然の素晴らしさを感じられることでしょうか。スキーやスノーボードは、他のスポーツに比べて自然環境から学ぶことが多いと思います。私はサーフィンもやるんですが、海以上に自然の変化を感じられます。

天候が変わるのはもちろん、雪質もすごく変わるので、雪遊びをしていてもその時その時で遊び方が変わっていくんです。固まる雪もあれば、サラサラの雪もある。板が滑る雪もあれば、滑らない雪もある。子供たちがその変化に気がついて「あれ?」と言っている姿を見ると、おもしろいなと思います。子供のうちに、そういった経験をたくさん積み重ねることで、いろんなことに対する対応力が育っていくような気がしています。

それに、私の子供もそうですし、スクールの生徒たちもそうなんですが、子供は本当に雪が好きなんです。夕方になると眠くて眠くて目をつぶりそうになりながらも、それでも滑るのをやめない子もいる(笑) 怪我につながるので、そのへんはうまくコントロールしていますが、子供がそのくらい熱中して楽しめるスポーツだというのも魅力だと思います。

ちょっとしたジャンプも子供にとっては大挑戦!


何ものにも換えがたいファミリーで楽しむスノースポーツの魅力とは

編集部:この「tenki.jp×ハピスノ」というメディアは、ファミリーでスキーに行く楽しさを皆さんに伝えているのですが、伏見さんはどんなところに魅力を感じていますか?

伏見さん:スノーボードスクールの生徒さんで、「子供がやるなら私も一緒に楽しみたい」ってお子さんと一緒にスノーボードを始めたお母さんがいらっしゃるんです。お母さんは通常のスノーボードスクール(STEP7)で、お子さんはヒキダスKidsスノーボードアカデミーでレッスンを受けるんですが、練習場所が近くて同じアイテムを使うこともあるので、お互いすごくライバル意識を持っているんです。

とくにお母さんが「子供には負けられない!」ってメラメラ燃えているんです(笑)終わった後は、「どんなことをやったの?」ってお互いに報告しあったりして。そんな姿を拝見すると、家族でスキー・スノーボードを楽しむって素敵だなと思います。

編集部:伏見さんご自身はどのように楽しんでいますか?

伏見さん:実は私、「あれもいるかな」「これもいるかな」とあれこれ考えながら準備している時間が好きなんです。子供と一緒にスノーボードをするとなると、荷物も多いですし、移動もたいへんです。できるだけお互いに負担がないように、計画を立てることが好きなんです。

そんなたいへんな思いをしてまで、あえて過酷な環境に行く必要はないという意見もありますが(笑)キャンプもそうですが、その不自由な環境を楽しむのがいいわけで…。なにより、スキー、スノーボードには、その先の滑った時の爽快感がある。この爽快感を家族で共有できるというのは何ものにも換え難いですよね。

(聞き手:長澤亜紀)

「爽快感を家族と共有できること」がスノーボードの魅力のひとつと語る伏見知何子さん

情報提供元: tenki.jpサプリ
記事名:「 ハピスノ伝道師INTERVIEW vol.3 伏見知何子さん「爽快感を家族で共有できるスノーボード」