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七種の節供は七日正月ともいい、七種粥を食べ、無病息災を祈る行事の日。摘んできた春の七草を独特の唄をつけながら俎板の上で刻み、粥に入れて食べることで、この一年は病気をしないとされました。元日から始まった正月もいよいよ終わりとして、この日に門松を外す地方も多いですね。
正月七日に七種の若菜を粥にして食する風習は中国から伝わり、平安時代のはじめ頃から宮廷で行われていたようです。地方によっても異なりますが、一般的な七種の種類は、次のとおり。実際にも七草は栄養豊富で、理にかなった行事だったのですね。「春の七草」を、別名や効用の一部とともにご紹介します。
一.芹(せり):貧血症、風邪、神経痛などの症状の緩和等に効果がある。
二.薺(なずな):別名ペンペン草。止血、止瀉剤などにも利用される。
三.御形(ごぎょう):別名母子草。古くはヨモギ代りに草餅に用いられた。
四.繁縷(はこべら、はこべ):歯槽膿漏や虫歯の痛み止めに効用。
五.仏の座(ほとけのざ):正式名は小鬼田平子(こおにたびらこ)。健胃・整腸作用。
六.菘(すずな):蕪(かぶ)の別名。根は胃潰瘍・胃炎などに効き葉はビタミン豊富。
七.蘿蔔(すずしろ):大根の別名。風邪や便秘に効き消化促進作用がある。
七種の節供に伴う季語は、彩り豊かに新年の歳時記に並んでいます。「若菜」は、昔は春にする食用の草の苗の総称でした。新春の若菜を摘みその生命力にあやかろうとしたのでしょう、のちに七種粥に入れる春草を意味するようになりました。光孝天皇(830~887年)の歌、「君がため春の野に出でて若菜つむわが衣手に雪は降りつつ」にも詠まれています。
その「若菜摘」や、正月七日全般の名称や行事を示す「七草」などの季語で、いにしえに思いを馳せ、大地の恵みに感謝を示す句を追ってみます。
・嵯峨へ行き御室へ戻り若菜かな
〈正岡子規〉
・古事記には海なる野辺の若菜摘
〈赤松蕙子〉
・草の戸に住むうれしさよ若菜摘
〈杉田久女〉
・若菜摘む風の峠をはるかにし
〈久松澄子〉
・帯高く七種籠を提げてきし
〈黒田杏子〉
「薺(なづな)打つ」の季語は、聞き慣れない人も多いのではないでしょうか。昔は正月六日や七日早朝に、右手には包丁、左手には杓子を持って俎板の若菜を叩きました。薺は、七種の代表格。「七種なずな 唐土(とうど)の鳥が 日本の土地に渡らぬ先に‥‥」などと節をつけ、囃したそうです。「七種打つ」とも言います。唱え、打ち、そして炊く行為には、本来の節供らしい、宗教的な気配が漂います。
・海鳴りへ七種を打つ音加ふ
〈柏 禎〉
・八方の岳しづまりて薺打
〈飯田蛇笏〉
・まん中に巫女ゐて薺囃かな
〈生田嘉子〉
・薺打って打つて昔を引寄せる
〈茂木白燕子〉
・大釜で炊く宿坊の七日粥
〈山崎羅春〉
中世から受け継がれた行事は、現代では忙しさに紛れて忘れがちなこともあります。それでも身体に優しい七種粥(七日粥)を口にすれば、故郷の風景や幼い頃の思い出が蘇るかもしれません。スーパーなどでも七草は入手できますので、季節の節目を、ほんの少し手をかけて味わって見たいものですね。
・吾が摘みし芹が香に立つ七日粥
〈小松崎爽青〉
・なづな粥吹きよせて野のあさみどり
〈稲島帚木〉
・小障子に峠の日あり七日粥
〈木村蕪城〉
・七草や風呂の煙の木の匂ひ
〈兒玉南草〉
・七草を売る丸ビルの花屋かな
〈清水 浩〉
【句の引用と参考文献】
『合本 俳句歳時記 第三版 』(角川書店)