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寒中につくる味噌や酒は特に「寒造り」「寒仕込み」として別格と考えられています。現在では温度管理を行い一年を通してつくることは可能ですが、それでも温度が低く安定した寒の水で仕込んだものは特別といわれます。味噌や酒は発酵によりうま味を引き出していきますが、発酵の始まりは時間をかけてゆっくりと進ませるのが美味しくなるコツということです。一番寒いこの時期に仕込むのがベストといわれるゆえんです。
「寒九の水」といって寒に入って九日目に汲んだ水をいいます。この水で薬を飲むとよいといわれたりしています。寒さの極まる今の時期の水が良しとされるのは、細菌の繁殖も寒さで抑えられるということもあるようです。温度計も科学もなかった時代、観察を怠らず感覚をしっかり働かせて生活を守ってきたことがわかります。
1月11日は飾っておいた鏡餅を下げる日です。最近では鏡餅の形の中にパックされたお餅がはいったものが主流のようです。本物のお餅は乾燥からひび割れができて堅くなり、鏡開きの時には扱いに難儀します。とはいえ本物のお餅を飾ると新年を迎える心は、神聖な気持ちになり引きしまります。この堅い鏡餅は槌で割って小さくしたのです。槌で割るとたくさんのかけらができます。このお餅のかけらが「欠け餅」です。焼いたり素揚げにして食べたのが「おかき」の始まりということです。頭に「お」をつけるのは女房詞(にょうぼうことば)。奥に勤める女たちが槌をふるって鏡餅と格闘していたなんて可笑しいですが、おかきの美味しさのためならどんな力も出せそうです。
実が瓜のような形をしているところから木瓜(ぼけ)の名がついたなどの説があります。またの名を「上元紅(じょうげんこう)」。「上元」とは陰暦の正月15日のことでこの頃に咲くので木瓜の別称となりました。寒中に咲く品種は「寒木瓜」「冬木瓜」と呼ばれます。冷たい風の中に凜と咲く姿は愛らしく、冬枯れのなかに明るい華やかさをもたらしてくれます。
15日は小正月、女正月ともいわれ小豆粥を食べる風習は全国に残っています。小豆はお祝いの豆、赤飯ではなくお粥にするというのが正月過ぎた寒の時期らしさを感じます。「15日の小豆粥、是を召し上がれば年中の邪気を払ひ」と明治の滑稽話にもでてきます。おめでたい小豆を粥にする、一年の始まりに込めた思いは今の私たちでもよくわかりますね。
「小豆粥祝ひ納めて箸白し」 渡辺水巴
正月気分もうすらいで本番の冬を迎えています。寒中見舞いをさし上げるのも今の時期です。喪中で新年の挨拶をできなかった方や、年賀状を出しそびれてしまった方へのお便りは華やかさの後のさみしさを紛らわす慰めになることでしょう。そんな心配りはあったかいですね。