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インターネット上で話題の「マンボウ最弱伝説」をご存じでしょうか? 噂されているマンボウのおもな死因は、だいたいこんな内容です。
・まっすぐしか泳げないため岩にぶつかって死亡
・皮膚が弱すぎて触っただけで痕が付き、それが原因で死亡
・潜ったら水が冷たすぎて死亡
・朝日が強すぎて死亡
・水面で日にあたっていたら鳥につつかれて死亡
・寝ていたら陸に打ち上げられて死亡
・寄生虫を殺すためにジャンプして水面に当たり死亡
・食べた魚の骨が喉に詰まって死亡
・食べたエビやカニの殻が内蔵に刺さって死亡
・水中の泡が目に入ったストレスで死亡
・海水の塩分が肌に染みたショックで死亡
・前から来るウミガメとぶつかる予感がしたストレスで死亡
・近くに居た仲間が死亡したショックで死亡
・近くに居た仲間が死亡したショックで死亡した仲間から受けたストレスで死亡…
もしすべて真実だとしたら。いくらなんでも弱すぎ…というか、まるで絶滅した生きものの伝説を聞いているみたいですよね…! じつは、すでにいろいろなマンボウ関係者(研究者さんや飼育員さんなど)により「これらはデマです」と断言されているので、実際マンボウはここまで弱くはないようです。
とはいえ…マンボウさんは、謎だらけ。ということは、推測や想像(妄想)の余地もたくさんあるわけですね! とくにショックやストレスなど「心のダメージ」が死因となるところなど、寂しいと死んじゃうウサギのイメージも重なり(←個人の感想です)、頭が良いらしいマンボウさんならひょっとして…などとも思ってしまうのです。
マンボウはフグの仲間(顔も似てますね)で、大きいと全長3m以上、体重は2トンにもなるそうです。世界中の熱帯や温帯の海域に生息していて、日本近海でも漁獲されています。古来から、薬や食材としても重宝されてきたお魚なのですね。
マンボウの学名はラテン語で「石臼」。マンボウの体の丸さを、当時の人が石臼に例えたことに由来するそうです。浮かんで日光浴などする姿が太陽みたいに見えるということで、英語の呼び名は「サンフィッシュ」。日本では、同じ姿から「ウキキ」と呼ばれていました。喜んでいるサル…ではなく、浮かんでいる流木(浮木)に例えた呼び名のようです。「マンボウ」が登場したのは江戸時代といわれ、「ウキキ」から時を経て置き換わったと考えられています。「満」「円」などの丸々したイメージが語源ともいわれていますが、詳細はわかっていません。
「魚の前半分だけ」のような不思議な形をしていて、キャラクターとしても大人気。尾ビレがなく、上下に付いている背ビレと尻ビレを同時にパタパタさせて泳ぎます。その体を、試しにクルッと90°寝かせてみると…ななんと、ペンギンの泳ぎ方と同じ⁉︎ そんな筋肉の使い方をして、海でのマンボウは意外と速く泳いだり、深海まで潜ったりしているらしいのです。
マンボウはよく海面に横たわってプカプカ浮かび「お昼寝」しています。これは、深海に潜って冷えた体を太陽の熱で温めているのだそうです。「水が冷たすぎて死ぬ〜!」と急いで上がってくるのでしょうか。体に付いたおびただしい寄生虫を、鳥に食べてもらったりもするようです。ならばときには容赦なくつつかれて、「いててて〜死ぬかと思った‼︎」てな場面だってありそう? ジャンプも(死なないで)できるそうです。また、マンボウは昼は激しく上下に移動しますが、夜はあまり動かず浅いところに漂って寝ている様子で、ちゃんと昼夜のけじめをつけて生活しているようですよ。
ところで、水族館のマンボウの水槽はなぜあんなに殺風景なのでしょうか。よく見ると内側には、ぐるりと透明なシートのようなものまで…??
どうやらマンボウは、泳いでいて上手く曲がれずに、本当に壁などに「ぶつかって」しまうらしいのです! 皮膚の下に分厚いゼラチン層があるため体がかたく、急な方向転換が苦手なのだとか…。そこで水族館では、水槽壁やガラス面に直接ぶつからないようにビニールシートなどで覆って保護し、安全性を重視したシンプルなインテリアにしているのですね。それでもマンボウはときどき、口から衝突してタラコ唇になったりしているそうです…。
マンボウは一見、メタリックカラーの革バッグみたいにツルツルした印象がありますが、じつはヤスリのようにトゲトゲしたウロコがあり、さらにヌルヌルの白っぽい粘液(粘着性があって手にくっつき、独特の臭いがするそうです)で体表が覆われています。これで水との摩擦を軽減し、お肌をガードしているのですね。海では、傷を負いながらもたくましく生き続けているマンボウも見られるそうです。意外にお肌はタフなのかもしれません。
野生のマンボウはクラゲなどを食しているようです。水族館では、エビ・カキ・アジなどをミンチにして消化しやすくしたものに水やビタミン剤を加え、ゼラチンで固めて「クラゲっぽい食感」のお団子を作ってあげたりしています。マンボウは消化不良を起こしやすく、それが原因で死亡することはめずらしくないのだとか。そのため、1日2〜3回に分けて少しずつ食べさせたり、消化の悪い場合にはエサに胃腸薬を混ぜたりもするそうです。「魚の骨」や「エビの殻」、やっぱり危険なのかも…。
シャチやイルカは、昼寝行動中のマンボウで遊ぶことが知られています。プカプカとお昼寝中のマンボウに体当たりして、泳ぎ去っていくのがよく目撃されているそうです。じつはマンボウ、天敵から逃げ回る行動は確認されていますが、反撃する行動は確認されていません。そもそも敵に襲われても逃げないことすらあるといいます。心の傷は大丈夫なのでしょうか…。
また、マンボウは魚にはめずらしく「まぶた」があって、刺激の「予感」を感じてつぶる? ともいいます。水槽の中にいるマンボウからは、人が見えるのだそうです。泳ぎながら見つめ返してくれるような、不思議に温かい気持ち…マンボウには、他のお魚では味わえない、感情の交流のようなものがあるような気がします。そしてときに、水底に横たわって口をパクパクさせていたり、壁に顔を当てたままじっと固まっていたりと「ひょっとしてこのまま死ぬのか?」という一抹の不安を誘う挙動からも、目が離せません。
マンボウは飼育が非常に難しく、国内の水族館などで最長飼育記録を競っています。そんな状況のため、わからないことだらけのお魚なのですね。マンボウに逢える水族館(現在では茨城県の大洗水族館や大阪府の海遊館など)は、とても貴重な存在。そして「予期せぬ急なお別れ」や「体調不良」も多いので、お出かけの際はあらかじめ生存・展示の確認をおすすめします。
最弱伝説をきっかけに、マンボウがつい気になってしまう人が続出して、そのおかげでマンボウのことがいろいろ解明されて、元気なマンボウさんにいつでも逢えるようになったらすてきですね! 興味のある方は、参考の書籍や水族館のホームページもぜひのぞいてみてくださいね。
〈参考文献・サイト〉
『マンボウのひみつ』澤井悦郎(岩波ジュニア新書)
『マンボウのヒミツ』海遊館 HP
『日本最大! マンボウの専用水槽』アクアワールド 茨城県大洗水族館 HP