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一等、なんと7億円! ここ数年で当選金がアップし、今回は一等・前後賞合わせると10億円になります!……ものすごい金額ですね。でも間違いなく当選する人がいるんですね。
くじに当たる確率が高い人……がいるように、よく「運がいい」「運が悪い」などと言いますが、今回ご紹介する落語も、主人公は貧乏神にとりつかれているのかと、わが身を嘆き、死のうとしたところを死神に助けられる運のいい(?)噺。
それでは早速、ドラマやアニメ、舞台、オペラにもなった落語、「死神」をご紹介しましょう。
やることなすことツイてない。運の尽き……と落ち込むことがありますね。逆に、やることなすことツイてる、絶好調!というときもたまにあります。
でも、「運の尽き」が成功へのきっかけになったり、「絶好調」が破滅への入り口だったり……。そもそも運とは、いったい何なのでしょうか?
あるところに、借金で首が回らなくなった男がいました。
いっそのこと死んだほうがまし……? 俺は貧乏神ではなく死神に取りつかれてるんだなぁ、と男がぼやくと、
「そうだよ」と答えた老人は、白い薄い毛が頭にボャ、っと生え、鼠色の着物の前がはだけてあばら骨が見えた風体をしていて、藁草履(わらぞうり)をはいて、竹の杖をついています。
── 実は、この老人こそ死神。
さすがに死神とは付き合いたくありません。逃げようとする男に死神は、
「金の儲かる仕事を教えてやる」と持ちかけます。
死神のもちかけた仕事とは、男が医者になること。
長患いをしている病人には、必ず頭または足下に死神が座っている。他の者には見えないが、男にだけはその死神が見えるまじないをしたといいます。
もし、死神が頭のほうにいれば、その病人には寿命がない。
また、足下にいる場合は寿命がある。
死神が頭のほうにいれば手をつけず、足下にいる場合には助ける方法がある。それは……?
「あじゃらかもくれん、あるじぇりあ、てけれっつのぱぁ」という呪文をとなえ、二つ手をたたく。
これは死神がどうしても帰らなければならない合図だといい、死神が病人から離れれば病人の病状はまたたく間に改善すると……。
勉強も資格もいらず、医者を名乗れば医者になれた時代。男は、医者から見放された病人を診ることになりました。するとその病人の足下には、死神が座っているではありませんか。
「しめた!」
死神から教えられた呪文をとなえ、ぽんぽんと手をたたくと、それまでうなっていた病人が急に元気になり、腹が減ったと言い出す始末。
噂はたちまち広まり、名医の評判が立って男はひっぱりだこ。それも妙なことに、どの病人も死神は足下に座っています。たまに死神が頭のほうにいるときはやむなく、「寿命が尽きているから、とても助かりません」と宣告せざるをえません。すると、男が表に出るか出ないかのうちに、病人は息を引き取ってしまうのです。
こうした見立ては評判を呼び、男は生神様(いきがみさま)とまであがめられ、立派な邸宅に奉公人、豪遊して贅沢三昧を楽しむようになります。
しかし、ある日を境にツキから見放されたように、患者はこないうえ、たまに患者があっても出かけてみると死神は枕元。男は元の一文なしになり、困り果てた末とんでもないことをしでかします。
ある日、江戸でも指折りの大家の主人を診ることになった男。「しめた!」とばかりに出かけると、死神は主人の枕元にいます。
あきらめて帰ろうとすると、たとえひと月でも寿命をのばせれば、一万両払うともちかけられ、金に目がくらんだ男は一計を案じます。
朝方、死神が疲れて居眠りしている隙に、若い衆四人で布団を持ち上げ、病人を布団ごとくるっと回します。枕元にいた死神が足下に移動したタイミングを見計らい、間髪入れずに男は、「あじゃらかもくれん、あるじぇりあ、てけれっつのぱぁ」と呪文を唱え、ぽんぽんと手を打ったのです。すると驚いて目を覚ました死神は、どこかに姿を消してしまいました。
男は約束の一万両を受け取って、めでたしめでたし……となるわけがありません。何といっても相手は死神。男は怖ろしい報復を受けることになります。
男の前に現れた死神は、男をむやみと暗い石段に案内します。地下室のような石段を下りていくと、いきなり空間が明るくなり、そこには無数の蝋燭(ろうそく)が灯っています。
驚く男に死神はいいます。「この蝋燭はみな、人間の寿命だ」。
長いのや短いのはもちろん、蝋がたまって灯(ともしび)が暗くなっているのは、患っている人間のものだと説明を受け、男はなるほど……と感心します。
ところが、もう今にも消えそうな、それこそ「風前の灯」のような蝋燭を死神は指差し、「それがおめえだ」といわれてしまいます。
一万両に目がくらみ、尽きようとしている寿命と自分の寿命を取り換えてしまったのだと……。
命乞いする男に死神が最後のチャンスを与えます。灯しかけの蝋燭を男に渡し、消えかけの蝋燭に火をつなげばいいと……。ところが、灯しかけの蝋燭は手が震え、消えようとする蝋燭につながりません。
「震えると火が消えてしまうぞ、早くしな」と死神は冷たい笑いを浮かべます。
「へ、へえ(震える手で火をつなごうとし、それを見つめて)あ、消える……」
バタリとその場に倒れてしまった男。ついに男の命が尽きてしまったのです……。── この暗示は見事なオチですね。
人の命を蝋燭の炎にたとえた着想は、深淵な哲理を漂わせますね。
そんな蝋燭の炎を一個所に集めたラストシーンは、この世に生あるものに〈生と死〉の現実感を鮮烈に具現します。確かに、壮大なオペラになりそうな光景です。
風前の灯の寿命をつぎ足そうとして、男の手が震える心理描写にも、思わず息を呑んでしまいます。
さて、死神も怖いけれど、それ以上に怖いのはお金ではないでしょうか?
── 今年、宝くじで7億を当てた24人には、どんな未来が待ち構えているのでしょう。あまり幸福にはならないような気がするのは、私だけでしょうか?