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さて、急激に発達した積乱雲によって、雷鳴が轟き、大量の雨が降る夏ならではの気象現象も、秋にはまた夏とは違った雨や雷になってきます。そうした違いから、歳時記では「雷」は夏の季語、「稲妻」は秋の季語とされています。
でも、同じ雷なのに、なぜ呼び方が違うのでしょうか? 「“稲”がつくのはあの田んぼの“稲”と関係あるの?」など、今回は「稲妻」に関して調べてみました。
「雷」と「稲妻」。
どちらも同じ雷なのに、どのような違いがあるのでしょうか。大きな違い、それは音にあります。
「雷」……積乱雲の内部、または雲と地表で引き起こされる放電現象で、雷鳴を伴う。夏に最も多いが、日本海側では冬が多い。
「稲妻」……雲の内部で起こる火花放電。稲の実る頃に多く、雷鳴は聞こえない。「稲光」ともいう。
例えるなら「雷は」ゴロゴロドッカーン! 「稲光」はピカピカ!
こんな具合に、音を伴うか伴わないかがわかりやすい違いなのですが、実はそれだけではないのです。
ご存じのように秋は稲が実る季節であり、一般的に稲刈りは9月から10月に行われます(8月に稲刈りをする九州や千葉県などもあり)。
多くは8月に「稲の花」が咲き、9月頃にかけて実をつけていきます。そこで、稲にとって大事な実をつける時季に起こる雷は、昔から稲の豊作に関連があると言い伝えられてきました。
では、「稲の妻」と書くのはなぜなのでしょうか。「稲」はわかりますが、「妻」の意味が気になりますね。実は「稲妻」は「稲夫(いなずま)」が語源。「夫」は古語で「つま」と呼び夫のことで、のちに読み方だけが残り「稲妻」になったと伝えられているのです。
つまり、「稲が実る頃の、夫の大事な役割」という意味があり、その時期「雷」が多いと豊作になるといわれてきたそう。実際、日本で有数の米どころである新潟県は「稲妻」が多い地域だそうですよ。
近年、科学的に立証された「雷」と豊作の関係ですが、昔からそれを言い得ていたのが「稲妻」という季語だったのですね。
ちなみに、同じ雷でも、次のような意味をもつものもあります。
春の雷の「春雷(しゅんらい)」は、冬眠していた虫が動き出すとされます。
また、日本海側の冬の雷「鰤起し(ぶりおこし)」は、冬が旬の鰤の大漁を呼ぶといわれています。
── 言葉や漢字の成り立ちを知ることは、日常生活に膨らみを持たせてくれるはず。同じ雷でも、春夏秋冬それぞれ意味も役割も違っているのですね。
今回は、農耕の知恵ともいえる季語をご紹介しましたが、田んぼがない都心部でも「稲妻」は見ることができます。秋の夜空に音のない「稲妻」が見えたら、それはきっと「夏が終わったよ、もう実りの秋だよ!」と大自然が合図を送っているのかもしれません。
「知って得する季語」のひとつ「稲妻」の意味を知ることで、秋ならではの日本らしい風情を楽しんでくださいね。
参照:『俳句大歳時記』(春~新年)角川学芸出版