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まず“五月晴れ”はどう読むのでしょうか?
「ごがつばれ」と読みがちですが、正しくは「さつきばれ」。五月(さつき)とは旧暦の五月「皐月(さつき)」のことであり、私たちが普段使っている新暦(グレゴリオ暦)の5月と、旧暦の5月が微妙に異なることはご存じのとおりです。例えば「旧暦の夏」は4・5・6月で「旧暦の秋」は7月、8月、9月。4月がすでに夏で、7月がもう秋とは、旧暦はずいぶん気が早い(笑)暦でもあるのです。
ここでまず、暦の種類をおおまかに説明しておきましょう。
◆太陽暦(新暦)
太陽が地球を一周する黄道を一年とした暦で、明治6(1873)年に制定され、地球上のほとんどの国が採用していて、4年に一度、閏年(うるうどし)があります。
◆太陽太陰暦(旧暦)
太陽と月の運行を基準としたもので、新暦以前に使っていた暦です。毎月、新月を一日に定め、満月までの29.5日を一カ月としましたが、太陽暦とは11日の誤差があり、そのため3年に一度、閏年を入れた13カ月として誤差をなくしていました
◆二十四節季(せっき)
太陽の黄道を24分割にした暦です。日本で太陽の高さがいちばん高くなる(地面に入射する太陽高度が最も高い)夏至、逆に、最少入射高度が冬至になります。
それを二等分し、地球の真横から太陽があたることで昼と夜の時間がほぼ同じになるのが春分と秋分です。その間を15日ずつ区切り、二十四の節季としました。
《冬至》-小寒-大寒-(立春)-雨水-啓蟄-《春分》-清明-穀雨-(立夏)-小満-芒種-《夏至》-小暑-大暑-(立秋)-処暑-白露-《秋分》-寒露-霜降-(立冬)-小雪-大雪 ⇒冬至に戻る ※ -は15日
多少の誤差はありますが、「夏」は4・5・6月、「秋」は7月、8月、9月としていた旧暦と比較して、二十四節季は私たちが感じる季節感と合っている暦であることがわかります。
さて、旧暦の五月“皐月”についてです。
旧暦も新暦同様、1月から12月まであります。それぞれ呼び名があり、1月の「睦月」と同じく、5月の「皐月」と「和風月名」という日本独自の呼び名。3月が“弥生”、12月が“師走”は特に有名で、和風月名は今でもよく使われる機会が多いですね。各月の名称と期間は以下の通りです。
1月・睦月/むつき/1月下旬 ~ 3月上旬頃
2月・如月/きさらぎ/2月下旬 ~ 4月上旬頃
3月・弥生/やよい/3月下旬 ~ 5月上旬頃
4月・卯月/うづき/4月下旬 ~ 6月上旬頃
5月・皐月/さつき/5月下旬 ~ 7月上旬頃
6月・水無月/みなづき/6月下旬 ~ 8月上旬頃
7月・文月/ふみづき/7月下旬 ~ 9月上旬頃
8月・葉月/はづき/8月下旬 ~ 10月上旬頃
9月・長月/ながつき/9月下旬 ~ 11月上旬頃
10月・神無月/かんなづき/10月下旬 ~ 12月上旬頃
11月・霜月/しもつき/11月下旬 ~ 1月上旬頃
12月・師走/しわす/12月下旬 ~ 2月上旬頃
皐月を見てみると「5月下旬 ~ 7月上旬頃」とあります。ここからもわかる通り、新暦と旧暦は1カ月ほどの違いがあるのです。
つまり、旧暦の5月は、新暦でいう梅雨の時期。このことから、入梅時季の雨の間の晴れ間を“五月晴れ”と呼んでいたのです。ちなみに「皐月」は田植えを始める月。「早苗月」の略、または狩りによい月の「幸月」からつけられたともいわれています。
しかし、梅雨の晴れ間の五月晴れは、湿度が低い初夏のすがすがしい晴れとは違って、太陽が顔をのぞかせても、湿度が高いため肌感触としては心地よさは感じません。
さらに梅雨の晴れ間は、なんといっても急激な暑さが特長とされます。蒸し暑さで息苦しくなるような感覚を「噎(む)せ返る暑さ」とも言いますが、本来の「五月晴れ」はどちらかというと、「すがすがしさ」とは無縁の「噎(む)せ返る暑さ」に近いともいえます。私たちは自然と心地好い天候の日を「五月晴れ」と表現していますが、暦の違いによって、その肌感や質感には大きな差がありそうです。
── 現在では、新暦(私たちが使っているカレンダー)の5月の晴れを“五月晴れ”として使うことが多くなりました。けれども、言葉や漢字の成り立ちを知ることは、日常生活に膨らみを持たせてくれるはず。 6月の梅雨空から一転、雲間から陽光が降り注ぐ梅雨の晴れ間に、友人や知人の前で「あっ、五月晴れだね」と堂々と使ってみてください。もし「6月なんだから“五月晴れ”は変だよ」と言われたら、「知って得する季語」のひとつ“五月晴れ”と“梅雨”の意外な関係を教えてあげてくださいね。