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さて立夏を過ぎ、俳句の世界では初夏の季語が活躍します。夏の初めの俳句を、いくつか紐解いてみましょう。
夏に入ると、春よりもいっそう力強い陽光がきらめき、煌めく若葉から発散される生命力には、心が浮き立ちます。自然の光景のみならず、街の空気や人々の装いも、夏を迎えて生き生きと躍動しています。「初夏(しょか・はつなつ)」「夏浅し」「夏めく」「薄暑(はくしょ)」などの季語を用いた句には、そんな様子が表現されています。
・初夏のひかりを湖(うみ)の上にかな
〈山田照子〉
・寺清浄僧等清浄夏めきぬ
〈高野素十〉
・薄暑来ぬ人美しく装へば
〈星野立子
・本の神田軒毎覗く夕薄暑
〈松本澄江〉
・浴衣裁つこゝろ楽しき薄暑かな
〈高橋淡路女〉
・一雨が来て炎帝に老い兆す
〈安居正浩〉
「炎帝」とは、夏をつかさどる神や太陽の意味で、「夏」の関連季語です。しばらくは炎帝も忙しくなりますが、盛夏を前に、祭りの準備にも心浮き立つ頃となります。
八十八夜の頃摘まれたお茶は、立夏をすぎた頃、本格的に新茶として出回ります。柔らかく香り高い新茶が味わえるのは、この時期の季節限定のお楽しみ。宇治や狭山、西尾、嬉野など、地域ごとの新茶を飲み比べるのも一興です。
・新茶の香真昼の眠気転じたり
〈一茶〉
・袋絵の富士みどりなる新茶かな
〈田中一義〉
・新茶飲み雨を激しと見たりけり
〈今村俊三〉
・新茶汲みたやすく母を喜ばす
〈殿村菟絲子〉
・もの忘れ母になかりし新茶かな
〈星野麥丘人〉
各地のバラ園では、ハイシーズンを迎えています。晩春から咲き始めて初秋まで続く薔薇ですが、初夏を盛期として、俳句の世界でも香り豊かな句が並びます。
・薔薇の香か今ゆき過ぎし人の香か
〈星野立子〉
・月の露光りつ消えつ薔薇の上
〈鈴木花蓑〉
・薔薇白し暮色といふに染りつつ
〈後藤夜半〉
・ばらの香のをりをり強し雨の中
〈楠目橙黄子〉
・咲き満ちて雨夜も薔薇のひかりあり
〈水原秋櫻子〉
このところ夏日かと思うと冷たい雨に降られたりと、寒暖の激しい時もありますが、羽織るもので調整するなど、体調を崩さないようにしたいですね。
【句の引用と参考文献】
『新日本大歳時記 カラー版 夏』(講談社)
『カラー図説 日本大歳時記 夏』(講談社)
『第三版 俳句歳時記〈夏の部〉』(角川書店)