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暗闇にあかあかと燃えるかがり火がうつる水面の上を鵜が泳ぎ、かがり火の光に驚いた鮎をとらえる。飲み込もうとするところを手さばきよく鵜匠が操り吐き出させます。釣り糸に餌を付けてたり、網で行う漁とは大きくちがう生きた鳥を使って行われる漁「鵜飼」の歴史は古く、『古事記』や『日本書紀』に魚を獲る人として登場しています。
古くからの行われていた漁法ですが、平成27年に「長良川の鵜飼漁の技術」として国の重要無形民俗文化財に指定されています。江戸時代は幕府や各地の大名の保護により続けられましたが明治維新になり、後ろ盾をなくすと衰退しました。そこで岐阜県は古代漁法の伝承を絶えさせてはいけないと宮内省に願い出た結果、鵜匠には職員の身分が与えられました。現在鵜匠は宮内庁式部職鵜匠という国家公務員として御料鵜飼を行っています。
この国家公務員、他の公務員と違うことがひとつあります。それは世襲制だということです。ちょっと驚きませんか? 今の時代に公務員が世襲制だなんて! 伝統を守り伝えていくということを考えると世襲というのも頷けるのではないでしょうか。
先ずは情緒を楽しみましょう。燃えるかがり火に浮き上がる鵜匠、束ねた手綱を持ち鵜舟の上に立つ姿はなかなかりりしいと思いませんか。腰に巻いているのは藁でつくった腰蓑、頭には風折烏帽子(かざおりえぼし)、はるか昔から今夜ここに鵜飼のためにやって来たような錯覚に落ちいります。
「鵜飼」が始まります。さあ、舟に乗り込んで! 一緒に楽しんでみませんか。
始まりを告げるのは花火です。私たちの乗った遊覧船は船団を組み鵜舟とともに川を下ります。これを「狩り下り」といいます。私たちの舟も鵜舟と一緒に走りますから、鵜が鮎を獲るようすを鵜匠の手綱捌きとともにしっかりと見られるんです。鵜匠の他に「中乗り(なかのり)」や「艫乗り(もとのり)」といった助手や舟を操る人も乗り込み、鵜匠と息を合せてのたくみな漁をみせてくれます。
クライマックスは鵜舟が川幅いっぱいに広がり下りながら鮎を浅瀬に追い込んで漁をする「総がらみ」です。これには歓声もあがるほどの迫力があるようです。
鵜飼が終わると鵜は籠に戻されます。これを「あがり」と呼びこの後はかがり火を川におとして鵜飼は終わります。
再び暗くなった川面にもう一度目をやれば、先ほどまであがっていた歓声や鵜の鳴き声、明るいかがり火の余韻が感じられるかもしれません。
「鵜飼」は楽しみといってもやはり漁。鵜匠と鵜そして鮎の戦いとも言えましょう。生命の循環の中での「鵜飼」は「生きる」ことをあらためて感じさせてくれます。
「おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな」 芭蕉
「いさり火や鵜飼がのちの地獄の火」 貞徳
生き物を使って獲物をとる。人間にしかできないこの漁を静かに見守る俳人たちの目は「鵜」や「鮎」にもそそがれます。
「疲れ鵜の鵜匠の蓑を噛みてをり」 尾池 和夫
「首筋を掴まれて鵜の畏まる」 井手 千二
「声あらば鮎も鳴くらん鵜飼舟」 越人
そして鵜匠に寄せる目は特別です。
鵜匠は命の尊さを知り尽くし「鵜飼」を統率しているのかも知れません。
「蓑つけて気品備はる鵜匠かな」 永井 尭
「鵜飼」は行われない日もあるそうです。鮎を獲るには明るすぎるということで満月の日と川の水が増水して危険と判断された日です。古来伝えられてきた伝統の「鵜飼」を機会があればさまざまなことを考えながら楽しみたいですね。