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牡丹(ぼたん)は中国原産。古くから薬用植物として、根が鎮静・鎮痛や血行障害改善などに用いられてきました。「丹」は、赤。もともとは赤い花だったようです。いまは観賞用として、赤・ピンク・薄紫・白・黄色…と、色もとりどりに楽しまれています。
牡丹は「咲いてるとは気づかなかった」などという反応とは無縁のオーラをまとっています。両手のひらからあふれるような、大輪の花。風が吹くと、幾重にもかさなったふわふわの花びらが揺れ、ほのかな香りが立ちます。色によっても香りかたが違うようです。
中国では「百花王」「花神」「富貴花」などと呼ばれ、高貴な人たちから熱狂的に愛されました。唐の長安では牡丹ブームがおこり、白居易の詩には「牡丹に比肩する草花はない!」「芙蓉や芍薬も平凡!!」などとうたわれています。花1株の値段が普通の世帯10軒分の一年の納税額と同じ、という超高級なものまであったのだとか…。
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」。これは、美しい女性の立ち居振る舞いを表す諺といわれています。百合はなんとなくわかりますね。ややうつむき加減に楚々と歩いているような姿でしょうか… 芍薬と牡丹は、同属で花の形がたいへん似ているのですが、佇まいはかなり違います。芍薬の花は上に伸びてスマートに立っている感じ、牡丹の花は横に広がってゴージャスにゆったり座っている感じ。この3つのなかでも、牡丹の美しさは特別なようです。
玄宗皇帝といえば、楊貴妃を溺愛するあまり政治を顧みなくなったことで有名な王様。そんな皇帝が李白につくらせた詩には、「牡丹の花に貴妃の美貌を想う」とあります。「名花傾国両(ふた)つながら相歓(よろこ)ぶ」。牡丹の花は、傾国の美女と同じレベルで皇帝の寵愛を得ていたのでした! この時代には、しばしば「牡丹の宴」がひらかれていたともいいます。
日本に観賞用の牡丹が伝わったのは、平安前期といわれています。江戸時代におこった園芸ブームにより栽培が盛んになり、広く愛でられるようになりました。牡丹には多くの種類があり、なかには「八重桜」「八千代椿」「玉芙蓉」などと別の花の名前が付いて少々紛らわしいものも。もしかすると、「桜や椿や芙蓉よりさらに美しいやつね!」みたいなノリで命名されていたりして…。
「唐獅子牡丹」と聞くと昭和の任侠映画を思い出す、という方もいらっしゃることでしょう。百獣の王である獅子と、百花の王である牡丹。この組み合わせは最高に縁起がよいとされ、古くから絵や調度品などにも用いられてきました。能では、『石橋(しゃっきょう)』が有名です。文殊菩薩の住む清涼山で、菩薩に仕える霊獣の獅子が勇壮豪華な舞を演じます。山一面に咲き誇る、紅白の牡丹に戯れながら! なんと牡丹は、異次元にも通じる美しさだったのです。
また、この組み合わせは「男気」の象徴でもあります。牡丹の「牡」は、オス。じつは昔、日本では牡丹の花はオスしかないと考えられていたのだそうです。任侠の世界で重要なシンボルになっているのも、任侠の本来の意味といわれる「正義」が、勇壮さと優しさを併せ持つ男気につながるからかもしれませんね。けれど、やはり牡丹には、美しい女性を感じてしまうのです…。
一説によると、無敵を誇る百獣の王・獅子(←ライオンじゃなくて霊獣です。念のため)がただ一つ恐れるものが、体の中に寄生する虫なのだそうです。この虫は牡丹の花の夜露にあたると死んでしまうため、獅子は夜になると、牡丹の花の下で眠るというのです。獅子にとって、牡丹の花は安心して休める隠れ場だったのですね。また、牡丹は獅子の霊力を抑える働きをしているという説もあります。強い獅子を癒して支える牡丹の花は、どちらかというと、肝っ玉のすわった華のある姐さん?…皆さまのイメージには、牡丹はどんな人の姿で現れるでしょうか。
上野東照宮の「ぼたん苑」では、ぼたん祭を開催中です。いまは遅咲きの牡丹や芍薬が見頃を迎えています。直射日光を浴びないように、よしずで囲んだり日傘をさしかけたり。大切に扱われて、牡丹は豪華絢爛のオーラを放っていましたよ。美しく開いた花たちを愛でながら、ゆく春を想ってみるのはいかがでしょうか。
■『第39回 上野東照宮 春のぼたん祭』
期間:2018年4月11日(水)~5月13日(日)
時間:9時00分~17時00分(入苑締切)
散策時間(目安):30分程度
入苑料:700円(小学生以下無料)
所在地:東京都台東区上野公園9-88
問い合わせ:03-3822-3575(ぼたん苑)
※開苑中無休
※天候に応じて開苑時期・時間を変更する可能性があります
<参考文献>
『歳時の文化事典』五十嵐謙吉(八坂書房)
『花の王国1 園芸植物』荒俣宏(平凡社)