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ガン類だけでなく、さらに小型のカモ類のほとんども、春の訪れとともに北方に旅立ち、冬の間ガン・カモ・ハクチョウたちで賑わっていた水辺は、一気に寂しくなります。
ハクチョウもガンも、カモ目に属する水鳥で、基本的にカモと同じ仲間です。ハクチョウ類、ガン類、カモ類とも、そのほとんどは渡りをしますが、日本などの温帯地域では、そのほとんどは越冬のために南下してくる冬鳥です。全国に冬、飛来するその総数は平成28(2016)年調べでハクチョウが約68,000羽、カモ類が159万羽ほどとなっていますが、ここ15年、増減を繰り返しながらやや漸減しているのに対し、ガン類は19,000羽あまりと、数こそ少ないものの、15年前と比べて二倍近くにまで増加しています。
かつては全国に飛来していた馴染み深かったガンも、明治の狩猟解禁以来狩猟され続け、一時期に激減して渡来がほとんどなくなり、現在も宮城県の伊豆沼などの限られた地域でしか見られなくなって久しいのですが、繁殖地であるシベリアでの保護活動が進んだこともあり、世界でのガン類の数は少しずつ回復しています。いずれ日本各地でふたたびガンが逗留するようになることも期待できますが、そのためには湖沼と田んぼによって形成される広い豊かな水場を、人間たちが残してやることが必須となります。
かたや、カモたちは今シーズンの冬も各地の水辺をにぎわせていたことでしょう。種類の多いカモ類ですが、もっとも多いのはマガモで、以下スズガモ、カルガモ、コガモ、オナガガモ、ヒドリガモ …となります。4月ともなると、旅立ちが比較的遅いコガモをのぞくと多くのカモ類が北へと旅立ち、水辺はいっとき静かになりますが、そんな中でも、国内で避暑地を求めて短距離移動する漂鳥であるオシドリ(鴛鴦 Aix galericulata)をのぞけば国内唯一の留鳥として一年中日本全国で見られるカモがカルガモ(軽鴨 Anas zonorhyncha)です。本州以南のほか、中国、朝鮮半島、ロシア東部のユーラシア北東部温帯域に生息する中型のカモです。
ここ最近あまり話題になりませんが、カルガモの親鳥と雛が行列するかわいらしい風景は、いっとき初夏のほっこり動物ニュースの定番で、ちょっとしたブームでしたよね。
「カルガモ」という名前の由来は、万葉集所収のこの歌と関係があります。
軽の池の 浦廻(うらみ)行き廻(み)る鴨すらに 玉藻の上にひとり宿(ね)なくに
「軽の池を泳ぎ回る鴨だって、藻の寝床で独りで寝たりはしないのに」と、思う人が遠くにある寂しさを詠っています。
紀皇女(きのひめみこ)が詠んだとされる歌の「軽の池」(現在の奈良県橿原市の剣池)にいつも泳いでいたカモであったことから、「軽の(池の)鴨」=軽鴨となった、といわれます。
食性は雑食で、主食は植物ですが、他のカモと比べても、より昆虫や貝、魚を好んでよく食べます。暖かくなってきた4月後半から夏前の7月ごろまでが繁殖期。開けた湖沼は避け、水田近くの草むらや竹やぶ、小さな水場のほとりなどの安全な場所に巣を作り、10個前後の卵を産みます。主にメスが単独で抱卵・育雛を行います。「家族」のイメージが強いカルガモですが、意外にもカルガモのオスは、鳥の中では育児にはあまりかかわらないほうのようです。
抱卵期間は一ヶ月弱と比較的長めですが、生まれてすぐに達者に歩けるほどに成長して孵化するので、すべての卵が孵化すると、親鳥はヘビやネコなどの捕食を避けることと、多くの餌を求めて、巣から緩やかな川や湖沼に移動します。あの、東京大手町のオフィス街の皇居脇の道路を行列するカルガモの親子の姿は、この巣から水辺への移動時のもの。ほほえましくは見えますが、親鳥にも雛にも、決死の移動の瞬間です。
近年、各地のカルガモの定住地で、アヒルやアイガモ(マガモとアヒルの交雑種)などが交雑し、羽色が全体に、または一部白っぽく見えるカモがよく見られるようになっています。これを「マルガモ」という名称で呼ぶこともあるようです。また、バリケンと呼ばれる大型の南米産の外来種ガモも、各地で野生化しています。もしかしたら今後、純血種のカルガモが見られなくなる、なんていうこともあるかもしれません。決して喜ばしいことではないのでしょうが、すべては人間の乱脈な自然への介入や進入が引き起こしていることでもあり、生まれた命を大切にする方向で、経過観察をしていきたいものです。
さて、サマーシーズン、日本に常在するカモはほぼカルガモだけ、と書きましたが、「いや、そんなことない。他にもいろんなカモっぽい鳥がいるじゃないか」とお思いの方も多いのではないでしょうか。水にぷかぷか浮いているずんぐりした鳥はどれもカモだと思われがちですが、まったく違う種類(目)に属する水鳥もまた多いのです。
広めの川や湖沼などに行くと、群れになってすいすいと泳いでいる、全身が黒くて、くちばしが真っ赤、もしくは真っ白の、「カモっぽいやつ」を見たことがある人も多いのではないでしょうか。赤いくちばしのものはバン(鷭 Gallinula chloropus)、白いくちばしの鳥はオオバン(大鷭 Fulica atra)といいます。カモと勘違いされることがとても多い鳥ですが、まったくカモとは異なり、なんとツル目クイナ科の鳥。したがって、水からあがると意外な足の長さを見せ、ツルの一族である片鱗をうかがうことができます。またその指についた水かきも、指間に膜を張ったかたちではなく、長い指それぞれに葉のようにひれがついています。どちらも留鳥で(寒冷地では冬には南下します)、一年中見ることができ、子育ての観察もできます。
古名で鳰(ニオ)または鸊鷉(へきてい)といい、由緒正しき名称を持つ水鳥がカイツブリ(Tachybaptus ruficollis)の仲間。「かいつぶり」とは、「掻きつ潜りつ」から転じたとも、水を掻いて「ツブリ」ともぐることからきているともされ、鳰は、「水に入る鳥」という意味であるというくらいに、何かというと潜水する小さな水鳥です。冬期にはカモの群れにも混じることが多いので、やはり小さなカモと勘違いされますが、カイツブリ目に属する鳥です。近縁の仲間はなんとフラミンゴ。流れの緩やかな川や湖沼に浮き巣を作り、そこに卵を産み付けて育てます。近年、大型のカンムリカイツブリが各地で多く見られるようになり、留鳥化しています。
見ようによっては、ウ(鵜 Phalacrocoracidae)もカモの仲間と思われている方もいるかもしれません。あの、長良川の鵜飼いの「ウ」です。暖地では特に、水辺で頻繁に出会うことのできる鳥です。川につきでた棒くいなどにとまり、翼を広げて羽毛を乾かす独特のポーズで、それとすぐにわかります。こちらは、カモではなくカツオドリ目。実はウはもともとペリカン目に属し、ペリカンの近縁だと思われていたのですが、ここ最近の分子系統の分析による新しい分類で、ペリカン目からはずされました。一方、ペリカン目には新たにコウノトリ目からサギ科、トキ科、ハシビロコウ科などが流入。つまり、今の分類でいうと、シラサギやアオサギ、そしてトキなどがペリカンの仲間、ということになったのです。
新たなペリカンの仲間となったサギのうち、夏が近づくと、ゴイサギとよく似たササゴイ、頭の色が赤茶色のアマサギ、飾り羽がおしゃれなチュウサギなどが夏鳥として渡ってきて、留鳥のサギ類とともにガン・カモ類が去ってさびしくなった水辺を、春から夏にぎやかにしてくれる季節となります。カルガモの子育ての季節ももうすぐですね。
(参考)
過去15年間のガンカモ類の冬期観察数の推移(全国集計値)