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そもそも平仮名は、漢字の音を借りて日本語を表記する「万葉仮名」から生まれました。たとえば、
●「あ」は「安」 ●「い」は「以」 ●う」は「宇」
●「は」は「波」 ●「な」は「奈」……などと書き、漢字の音を借りて日本語を表記するための文字として使っていたのです。
これが次第に書き崩されるようになり、次第に平仮名化していきます。その歴史は古く、おおよそ9世紀(平安時代)ごろから書き始められ、10世紀には現在のかたちに近い平仮名になったと考えられています。さらに、平仮名は宮廷内の女性による和歌文学や物語文学の進展との関係も深かったため、「女手(おんなで)」とも呼ばれていました。
もととなった漢字を「字母」と呼びますが、日本語の「あ」は「安」だけで書かれたわけではありませんでした。
平安時代からの筆跡を見ると、「亞」「阿」なども「あ」として書かれていて、長い歴史の中で「安」が広く使われるようになり、ほかの漢字は淘汰されていったようです。このように、仮名によっては複数の字母が長く使われたものもありました。
たとえば、現在の平仮名の「に」は「仁」を字母としていますが、歴史的には「尓」や「耳」のほうが広く使われていました。同様に「は」では「者」「盤」も使われています。
明治33(1900)年に、漢字とカタカナで規則が表記された「小学校令施行規則」が当時の文部省より出され、五十音図と平仮名の標準的な字形について方針が定めらることになります。
その中で、「同音ノ仮名ニ数種アルヲ各一様ニ限ルコト(即チ変体仮名ヲ廃スルコト)」とされ、漢字の字形から簡略化が進んでいない字形や複数の字母を持つ仮名は、現在のかたちに統一されたのです。そして、それ以外は冒頭でご紹介したおそば屋さんのれんなどで見かける"うふぎ"などに代表される「変体仮名」という、あまりありがたくない名前になってしまいました。
その伝統は、今の私たちの身近な場面にもたくさん残っています。
たとえばおそば屋さんののれんには「楚者(そば)」という変体仮名が使われています。
●一番左の文字/「新鮮な」という意味の「生 = き」
●まん中の文字/四面楚歌の「楚= そ」をくずして“かな”にしたもの
●一番右の文字/ひらがなの「む」にも見えますが、漢文で主語を表す「は」と読む「者」をくずして、濁点をつけたもの
よって、「きそば」と読みます。
また、うなぎ屋さんののれんでも見かける「ふ」(メイン画像参照)に見える文字は、「な」の変体仮名「奈」です。
さらに、「団古(だんご)」「御(於)手茂登(おてもと)」「天婦羅(てんぷら)」などの文字も今でもよく見かけますし、仮名書道などの書道作品でも使われます。
現在、私たちが使っている日本語やその文字の使い方は明治になってその枠が決められたものが多く、それだけ歴史が浅いのですが、変体仮名のほかに漢字やひらがなには不思議がたくさん秘められています。その不思議についてはあらためてご紹介しますが、春の行楽シーズンを迎えました。街なかをなんとなく歩いているとき、変体仮名ウオッチをしてみませんか?