ソチ五輪から採用されたスロープスタイルと今大会新種目のビッグエア。2014年ソチ五輪では角野友基選手が8位入賞。2015年には鬼塚 雅選手が世界選手権で優勝。また、つい先日、米コロラド州アスペンで開催された冬季競技の賞金大会「ウィンターXゲームズ」女子ビッグエアでは、岩渕麗楽選手が2位と、日本人の活躍が期待されるこの2種目。今回は、全日本スキー連盟スロープスタイル/ビッグエアチームコーチの今井勇人氏に話を伺いながら、その魅力や見どころを紹介します!

昨年12月アメリカ コロラド州スノーマスで開催されたW杯スロープスタイルで國武大晃選手、岩渕麗楽選手が2位を獲得


Slopestyle(スロープスタイル)とは

スロープスタイルとは、2014年ソチ五輪より新たに採用されたスノーボード種目です。オリンピックの種目として採用されるまでも、「ウィンターXゲームズ」をはじめ、数々の世界大会が開催されてきました。全長約600mのコースの中に、複数のジャンプやボックス、レールなどがレイアウトされ、いくつかのアイテムを自身で選択し演技しながら滑走する採点競技です。そんなスロープスタイルの魅力について、今井勇人コーチに伺いました。

橋本通代(以下、橋本):スロープスタイルというと、ソチ五輪のマトリョーシカを飛び越えるアイテムが印象的でしたが、平昌五輪でも特徴的なアイテムはあるのでしょうか?

今井勇人(以下、今井):ソチ五輪のマトリョーシカはたしかに印象的でしたね。世界選手権でもヨーロッパ風の家の屋根を滑るようなアイテムがあったりと、特徴的なものがラインナップされるケースが多いです。平昌五輪のアイテムもすでに発表されています。最大の特徴は、通称「ウータンキッカー」と呼ばれるジャンプ台。このキッカーの難しさは、飛び出し口が斜めに傾いていること。これまで世界に類がない新しいアイテムなので、このジャンプ台をどう攻略するかが、メダルのゆくえを左右するのではないかと考えています。

橋本:新しいアイテムの攻略がカギということは、観戦する際のチェックポイントは「ウータンキッカー」ということになりそうですね。

今井:もちろん、「ウータンキッカー」には注目してほしいですが、スロープスタイルはルーティーンも重要な要素となります。スタートからゴールまで、ジャンプ3~4個、ジブ3~4個を一気に滑るわけですが、同じ技を2回かけても点数が伸びないので、トリック数は全部で7~8個。それをどう構成するかにはかなり頭を使います。回転ひとつとってみても、回転数だけでなく、回転に縦方向が入っているかどうか、回転方向が時計まわりなのか、半時計まわりなのかなどもチェックしてほしいですね。また、アイテムに右足が前で入っていくのか、左足が前で入っていくのか、これだけでも技の難易度が大きく変わってきますので、ぜひその辺りもチェックしてみてください!

國武大晃選手のエア。タテ軸の入った高回転ジャンプに加え、難易度の高いジブトリックもこなす


Big Air(ビッグエア)とは

ビッグエアとはひとつのキッカーで演技し、その技の難易度と完成度等を競う採点競技です。スロープスタイルと違い、たった1回のジャンプのみで採点するためシンプルであり、比較的、優劣がわかりやすいのが特徴です。注目は25mプールを飛び越えるくらいの大きなジャンプで、どんな高難度の技を繰り出してくるのかという点。そんなビッグエアの見どころを、今井コーチに伺いました。

橋本:平昌五輪から正式種目となったビッグエアですが、どんな特徴をもつ競技ですか?

今井:私が帯同したW杯のビッグエアは、すべてシティイベントとして街中で開催されたもので、例えば、北京開催ではスタジアムの中にスキージャンプ台のようなものが特設されていました。高さは約50m! 選手たちはスノーボードを持って、地上から一気にエレベーターでスタートエリアに上がります。当然、フリー滑走のようなウォーミングアップはできないので、最初は回転せず、まっすぐ飛び抜けていくなどして、キッカーの調子をチェックします。回転しないといっても、高さ50mから約25mのビッグジャンプですからね、見ている側もいつも緊張して見守っています。

橋本:ずばり、ビッグエア観戦の楽しみ方を教えてください!

今井:スロープスタイルのように技の構成を考えなくていいので、自分ができる最高難易度の技を披露することができる点だと思います。また、決勝では3本中2本が得点として採用(合計点)されるため、ひとつの技だけが完璧でも勝てない場合があります。選手それぞれの全力のパフォーマンスをぜひ楽しんでください!

ビックエアのスタート台から鬼塚 雅選手を撮影した写真。小さい時は泣いていたことも。がんばれ!びーちゃん!


メダル獲得が期待される選手は?

今回、スロープスタイル、ビッグエアの2種目で平昌五輪への出場を決めたのは6名で、いずれもメダル獲得を狙える選手ばかり。「スロープスタイル/ビッグエアチームは結成まもないチームですが、どの競技よりも多くのW杯をチーム一丸となって転戦してきました。目標はずばりメダル獲得です!」と語る今井コーチに、それぞれの選手について、その評価を伺いました。

【大久保勇利(Yuri Okubo)】長い手足を生かしたダイナミックな演技が特徴です。まだ17歳ではありますが、ここ一番の勝負強さが魅力。オリンピックでその強さが発揮されることを期待しています。

【國武大晃(Hiroaki Kunitake)】天然的なうまさを持っている選手で、また日本人には珍しくジブアイテムが得意なため、両競技での活躍を期待しています。ビッグエアではトリプルコークを成功させられれば、メダルに絡んでくる可能性は大です。

【鬼塚 雅(Miyabi Onitsuka)】ここ一番の強さと実力を兼ね備えた選手です。世界選手権優勝をはじめ、数々の世界大会を勝ち抜いてきた彼女の経験と勝負強さが、オリンピックの舞台でも発揮されることでしょう。

【藤森由香(Yuka Fujimori)】スノーボードクロス(SBX)で過去3回の五輪出場経験のある彼女ですが、今回はスロープスタイルとビッグエアに出場。自身で集大成と位置づける今大会で、どのようなパフォーマンスで挑むのか、とても楽しみにしています。

【広野あさみ(Asami Hirono)】チームの中でもワールドカップ参戦数は最多。国際大会での豊富な経験を生かし、オリンピックでも好成績を残してもらいたい。また、持ち前の明るさも彼女の武器ですね。

【岩渕麗楽(Reira Iwabuchi)】“岩手・一関の宝”と称されるほどの逸材。先日のウィンターXゲームスでの2位は、記憶に新しいところ。安定感抜群のライディングで、世界の強豪とどこまで戦えるかが見ものです。

2017/18シーズンW杯初戦直前のニュージーランド合宿の写真。大事なシーズンに向けて、ともに調整を行なった


スロープスタイル、ビッグエアを楽しく応援しよう!

全日本スキー連盟スロープスタイル/ビッグエアチームコーチの今井勇人氏とともに、2つのスノーボード種目について紹介してきましたが、私自身も2002年ソルトレイク五輪スノーボードハーフパイプに出場。翌年からは宿泊型子供スノーボード教室「キララキャンプ」をベースに、普及から強化までのキッズスノーボード育成に携わってきました。

上記の鬼塚 雅選手、岩渕麗楽選手のほか、ハーフパイプに出場する片山來夢選手、戸塚優斗選手、富田せな選手もキララキャンプ卒業生です。小さかった彼らが、緊張やプレッシャーと戦いながら、オリンピックの舞台で華麗にジャンプする姿は、想像するだけでも胸が熱くなります。

今井コーチはスタート台から、私はテレビで子供たちの活躍を応援したいと思います。ひとりひとりが自分のベストを発揮し、最高の笑顔でゴールできること、そしてオリンピックの経験を通じて、彼らの人生がより輝くことを心から祈っています!

2006年、片山來夢選手(写真右)とウィスラー遠征に行き、W杯を観戦。それからわずか12年でオリンピックの舞台に!

情報提供元: tenki.jpサプリ
記事名:「 <平昌五輪スノーボード競技の見どころ>スロープスタイル&ビッグエアで世界の頂点へ!