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日本のアール・デコ様式の代表建築である、旧朝香宮邸(本館)と、ホワイトキューブ(新館)、この二つの展示会場を持つ東京都庭園美術館では、西洋美術から日本の工芸、現代芸術に至るまで、幅広い展覧会が催されてきました。昨年、エレベーター設置工事に伴う約半年間の休館後、再オープン初の展覧会が、装飾は流転する―「今」と向きあう7つの方法、です。装飾というキーワードをテーマに、気鋭の作家7組と美術館が、独自の空間に織りなす展示は、「装飾美の館」ならではのコラボレーションとなっています。装飾というと、貴金属をはじめとした飾りを思い浮かべがちですが、その始まりは弔いの儀式など、生活に密着したものでした。装飾は私たちの生活の中から生まれたもののはず…季節や生活に寄り添う作品を展示している、高田安規子・政子姉妹のユニットの作品から見えるものとは?
高田安規子・政子姉妹(以下、高田姉妹)は、本館・旧朝香宮邸のプライベートな居室に、まるで妖精が魔法をかけたように作品を散りばめています。往時の朝香宮家の人々が日常の食卓としていた小食堂には、四季を表わす皿《Four Seasons Plate》と季節の移り変わりを色彩で表現した木の葉《Leaf》が、窓辺のガラスケースには切子硝子の器…にしか見えない、細工を施した吸盤《カットガラス》が日差しを浴びてきらめいています。まるで妖精が舞い降りて、邸内で遊んでいるような作品たち。鑑賞者は見つける度に「みつけた!」とつぶやきたくなりますね。
高田姉妹は、「スケール(尺度)」をテーマとしていると自ら語っています。今回の展示においては、往時のエピソードや使用方法を大切に、想像力を最大限に発揮しています。2階にある書庫には、現在書籍は残されていません。妖精は、あるはずの書籍の代わりに《豆本》の山を築き、今も昔も使ったことのない《梯子》を小さな洗濯ばさみで作り出しました。大きな本棚に、そっと置かれた「あるはずの物」の再現と「ないはずの物」の創造。それはどちらも小さな世界だからこそ、美しいのだと感じるのではないでしょうか。原寸大ではない「尺度の美」が二人のアーティストの想像力を通して妖精に宿ったのかもしれません。
姫宮の寝室から居間へ、妖精の魔法は力が衰えません。この居室は1階の小食堂の真上にあたります。四季を散らした小食堂同様、姫宮の居間においても、妖精は季節の彩りでクローゼット染めあげ《In the Wardrobe》を作り出しました。春の花がバッグの裾野に咲き、クローゼットの中のドレスには立体刺繍の秋の葉や、レース編みによる雪の結晶が舞っています。春から冬へめぐる季節を、一つの空間につめこんだ景色は、一年の四季だけでなく、姫宮の成長にともなう変化までも想像もできそうです。