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昔の人は「大寒にくんだ水は一年間腐らない」とよく言ったそうです。水が腐るというのもおかしい表現ですが、細菌が繁殖しにくいといった意味があるのではといわれています。昔の人々は井戸から水をくんでいましたから、夏の暑い時期は細菌が繁殖しやすいとされていました。一方で、大寒の時期は水温が下がり、細菌も繁殖しにくく不純物も少なくなるといわれてきました。そのため、大寒の時期に水を多めにくんでおいて取っておくという家庭もあったようです。
また、水がきれいということは、この時期に水を使った食べ物の仕込みを始めると、おいしくできることにもつながります。例えば「味噌」「醤油」「酒」「凍り豆腐」「寒天」といったようなものは、まさに水が命といっても過言ではありません。こうしたことから、水がきれいな大寒の時期に仕込み、暖かくなってくる春に発酵させるのが今に伝わっているといわれているのです。
昔は今のように養鶏が発達していませんでしたから、いつでも卵が好きなだけ食べられるほど豊富にはありませんでした。実は鶏も冬の寒さは苦手な動物……。春になると活発に卵を産みますが、冬の間は極端に卵の数が少なくなり、さらに冬の寒さのため水分摂取量も控えめになり、その代わりに飼料を好んで食べるようになります。つまり、飼料をたくさん食べた卵 = 栄養価値の高い卵を産むことになることから、大寒の時期の卵は希少価値が高く、さらに質においても一年のうちで最も優れたものとされていました。
栄養が高いという理由以外にも、大寒に卵を食べたほうがよいとされる所以があります。それは風水的に大寒のときに卵を食べると、金運と健康運がアップするという言い伝えです。このようにいわれる理由も、やはり厳しい寒さを耐え抜いて産まれてきた卵だから……ということだそう。昔の人は縁起物としても、大寒の卵を大事に食べていたのでしょう。
大寒の時期になると、お寺や氷がかたく張りつめた沢での寒修行や寒中水泳の様子がテレビでもよく放送されますね。あるいは、武道をやっている人であれば、寒風が吹く屋外で寒稽古に取り組んだりします。
こうした修行は、最も寒い時期に己の心身を鍛える、寒中の酷寒に耐えながらの稽古によって、武道の技量の向上を図るといった意味合いももちろんあるでしょうが、いにしえから行われている理由は、それだけではありませんでした。
二十四節気の上で大寒は、「邪気払い」や「気を引き締める」という時期と位置づけられていたことにかかわりがあるからです。大寒の最後の日の節分で鬼を払い、恵方巻を食べるといった風習も、この「邪気払い」に通じていたようですね。
── 昔の人々は厳しい大寒の時期に耐えながら、暖かい春を待ちわびていたことが、今に残る風習からもうかがえますね。大寒を過ぎれば、暦の上では春へと向かっていきますが、これから迎える寒さのピークですら、その寒さを楽しみながら四季を感じ、健やかに過ごしたいものですね。