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まだ夜が完全には明けない元旦の句です。期待と緊張感が交錯しているようです。
〈元旦や暗き空より風が吹く〉青木月斗
初日の出はなんだか頼もしいですね。今年の大晦日は深夜から雨……という地域もあるようですが、初日の出の時間に雨雲が消えるとよいですね。揺らぎながら上る太陽には豊かさを感じます。
〈何が走り何が飛ぶとも初日豊か〉中村草田男
〈大初日海離れんとしてゆらぐ〉上村占魚
〈初雀嘴(はし)よりひかりこぼしけり〉岸田稚魚
元旦の雀の嘴に光がこぼれて見えるという、微細なものに詩を見つけ出す俳句ならではの句です。
〈元日や神代(かみよ)のことも思わるる〉荒木田守武
〈元日や枯野のごとく街ねむり〉加藤楸邨
「神代」は古代の神話の時代のこと。昔のお正月は、古代のことが思い出されるような静かな一日でした。街には門松が飾ってあります。門松は本来正月にお迎えする神の憑代(よりしろ)でした。
〈門松のすこしゆがんでいる日向〉桂信子
新年にはさまざまな行事があって、楽しいものです。書初(かきぞめ)は気分があらたまります。
硯(すずり)の墨をためる部分を「海」と呼ぶので、子規の句は、初日がさす本当の海を連想して詠んでいます。命毛(いのちげ)とは筆先に使われている穂先の長い毛のこと。三鬼の詠む、初日の出を見に行った海岸の砂浜に書いた書初めはすぐに消えてしまいます。どんな言葉を書いたのでしょうか。
〈初日さす硯の海に波もなし〉正岡子規
〈ましろなる筆の命毛初硯〉富安風生
〈一波に消ゆる書初め砂浜に〉西東三鬼
楽しみなのは、お雑煮を食べながら読む年賀状です。
〈遠き人遠き想いの賀状来る〉山下麦秋
〈白々と余白めでたし年賀状〉中村七三郎
〈空たかき風ききながら雑煮膳〉臼田亜浪
初夢は元日の夜または2日の夜に見る夢のことです。最初の句はおめでたそうな夢ですが、
〈初夢に大いなる鞠(まり)を貰(もら)いけり〉阿部みどり女
〈初夢の扇をひろげしところまで〉後藤夜半
〈初夢に何やら力出しきりし〉岡本眸
最後の句はなにか覚えてないけど、年の始めから苦労する夢を見てしまいました。ユーモラスな句です。
さて、松が明けて七草(七種)は、誰でも知っているように正月7日にセリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ(大根)を入れたおかゆを食べる行事です。さっぱりとした味わいが日常に立ち戻らせてくれます。
〈七草のかゆのあおみやいさぎよき〉松瀬青々
まだまだ寒いのですが、なんとなく春の予感が感じられる短歌を二首。
〈日おもては雑木(ぞうき)にこもる霜の気の照りあたたかし春めきしかも〉北原白秋
〈このごろの一日二日にわがやどの軒端のうめもいろづきにけり〉良寛
── 毎年のように思うことですが、2018年は心静かなよい年になるといいですね。2017年の残りわずかな時間を有意義に過ごし、心豊かに新年をお迎えください。