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秋の果物の代表、柿ですね。
柿といえば、次の句を思い出さない人は少ないんじゃないか、というほど有名なのが、次の句でしょう。
〈柿くへば鐘がなるなり法隆寺〉正岡子規
子規は柿が好きで、子規と仲がよかった夏目漱石は、あるとき正岡子規が一度に柿を16個食べたと暴露しています(「三四郎」)。
また、昔は女性が嫁ぐ際に、柿の苗木を持って行って婚家で植える習慣があったといいます。その女性が一生を終えると、その柿の木の枝を切って火葬の薪や骨を拾う箸にしたとか(坪内稔典『季語集』)。
〈柿の朱を点じたる空こはれずに〉細見綾子
〈柿ひとつ貰ひて柿と遊びけり〉遠藤梧逸
同じ頃にたわわに実るぶどうですが、柿と違って、より甘く、ほのかに酸っぱく、ロマンティックで豊かな感じがします。
〈葡萄食ふ一語一語の如くにて〉中村草田男
〈葡萄に舌をいきいきとさせ今日はじまる〉加藤楸邨
ふと、昔のことを思い出したり、寂しくなって誰かに連絡をとってみたり……と、秋は人がもの思いにふける季節でもあります。
〈門を出(いで)て故人に逢(あい)ぬ秋の暮〉与謝蕪村
〈頬杖に深き秋思の観世音〉高橋淡路女
〈秋の日が終る抽斗(ひきだし)をしめるやうに〉有馬朗人
蕪村の句はさびしさとなつかしさが入り混じったような秋の夕方を詠んでいます。
秋にさびしさを感じ、もの思うことは、中国の詩人・杜甫の句に由来する「秋思(しゅうし)」という言葉がある通り、歌でも昔から詠われてきました。
〈さびしさに宿をたちいでてながむればいづこもおなじ秋のゆふぐれ〉良暹法師
〈むかし思ふ秋の寝覚の床の上にほのかにかよふ峰の松風〉源実朝
〈おほてらのまろきはしらのつきかげをつちにふみつつものをこそおもへ〉会津八一
八一の歌は「唐招提寺にて」という詞書があります。秋とはっきり書いてありませんが、秋のほのかな憂いを謳っているような歌です。
一方、秋の季語で面白いのは「蚯蚓(ミミズ)鳴く」です。
ミミズが鳴くわけはないのですが「秋の夜、じーっと切れ目なく長く、何ものとも分かちがたく鳴く音」をいうのだそうです(山本健吉)。要するに、秋の夜の静けさを表現する、俳句的な想像力の一つだということでしょうか。
〈蓙(ござ)ひえて蚯蚓鳴き出す別(わかれ)かな〉寺田寅彦
── 季節の変わり目は、あっという間です。
季節の言葉は、この時の早さをなんとかしばし止めようとする人間の願望でもあるのでしょう。