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その熱気は、草たちの息づかい。植物にはちゃんと「感覚」があるらしいのです。触られて巻きついたりする触覚はもとより、光の色を見分ける視覚のはたらきも確認されています。「植物にモーツァルトを聴かせると、よく育つ」という噂を耳にされた方もいらっしゃるでしょうか。科学的な証明は難しいようですが、「好きな音に反応する」聴覚はもっているのでは、とも考えられています。さらには「塩辛さにびっくりする」味覚まで!? …植物ったら、人知れずそんなにいろいろ感じていたなんて。
ですが、たとえ不快や危険を感じても、その場からぴゅ〜と逃げられないのが植物のつらいところ。日頃どれほど多くのストレスにさらされていることか! そして、もっともこたえるもののひとつが「夏の暑さ」…じつは植物にも体温(葉温)があるのです。「ちょっとエアコンの効いた屋内へ」というわけにはいかない自然界の草たちは、おそらく人間以上に「猛暑つらすぎるわ〜」と感じているはず。なのにずっと戸外でじっとしていて、熱中症にかかったりはしないのでしょうか?
植物は、葉の裏にある「気孔」という小さな穴で体温調節していたのです! 顕微鏡で見ると、ポッカリまるい穴ではなく、まるで目のような、はたまたタラコ唇のような、不思議な形。そのタラコ唇(孔辺細胞といいます)が開閉しながら水分を発散(蒸散)させています。ちなみに気孔は、葉の裏表にあったり、ハスのように表だけにあったりと、植物の種類によって違うようです。
植物の一大事・光合成には、太陽を浴びることが不可欠。ですが、あまりに陽射しが強烈だと葉っぱの体温が急上昇(やっぱり熱中症に!?)。高温すぎてタンパク質である酵素がはたらかなくなり、光合成もできなくなってしまうのです。そこで、葉っぱは気孔を開き、蒸散させて体温を下げます。これが植物たちの汗なのですね! 目には見えませんが、ためしにポリ袋をかぶせると、袋の内側にはこまかい水滴が。「草いきれ」を草の息と考えるならば、犬が体温調節のため舌を出してハアハアする、吐息のイメージでしょうか。そしてこの蒸散は打ち水のような効果をもたらすといわれ、地球温暖化対策の「緑のカーテン」でも活躍中です。
さらにUV対策も。紫外線を葉っぱの表面で反射・散乱させ、葉の表側の細胞には、紫外線を吸収する物質を含んでいます。って、なんと私たちが日焼け止めクリームを塗るのと同じ仕組みですね! それでも細胞の中に入り込む紫外線が活性酸素(←人間の老化やガンの原因にもなる、こわい物質)をつくった場合、それを消去する仕組みまでもっています。それが、カロテンやアントシアニン、リコペンなどの抗酸化物質。植物は太陽を浴びるほど、活性酸素から身をまもるために、これらの物質を多くつくります。その結果、葉や花や実は、より鮮やかな色になるというのです。紅葉や夏野菜の美しい色は、植物が紫外線と闘った証しだったのですね。
夏は人を開放的な気分にさせるといわれています。若者たちはどういうわけか恋の冒険がしたくなり、「夏の熱気にのせられてつい」などと秋に体験告白したりしますね。けれどもただカラッと暑い夏では、そんなに開放的にはなれないような。なぜなら、熱気もお色気も「ムンムン」と蒸れるもの。汗ばむ蒸し暑さのなかでこそ、恋愛モードは全開となり、夏祭りのボルテージも上がるのではないでしょうか。万歳! 日本の湿気!!(個人の感想です)
同じ性質を持ったものが一カ所に集まってつくる「いきれ」。熱気の中でがんばっている植物たちは、葉っぱの言葉でお互いを励ましあっていることでしょう。人の発する体熱で息苦しく不快な状況をあらわす「人いきれ」も、じつはヒト同士の見えない連帯感が隠れていたりして?
太陽を浴びて汗をかき、集まってムンムンとエネルギーを発散させ、励ましあう。それが日本の夏らしい過ごし方なのかもしれませんね! 暑さも後半戦。どうか体温調節をこまめになさって、熱中症にはくれぐれもご注意くださいませ。
<参考文献>
『ふしぎの植物学』田中修(中公新書)