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噺の本来の季節は、もう少し暑くなってからかもしれません。
若旦那(だんな)の徳。落語に出てくるたいていの若旦那と同じく、道楽が過ぎて親から勘当(親子の縁を切られること)されてしまいます。あちこちに居候して、親のありがたさがわかる頃には、ついに宿なしに……。
進退きわまった若旦那、思い余って吾妻橋から身を投げようとします。そのとき、身投げを止めてくれたのは、なんと若旦那のおじさんでした。
おじさんは、長屋に連れてきて若旦那を置いてやることにしますが、翌朝から唐茄子(かぼちゃのこと)の行商に出かけろ、と言うのです。
「これができなきゃ、とっとと出てゆけ!」というおじさんのけんまくに驚いた若旦那は、しかたなくかぼちゃをザルに入れて売りに出ます。
おじさんは決して甥っ子を八百屋にしようとするつもりではなく、道楽者が改心し、いまは苦労して頑張っていることを人づてに親に知らせて、勘当を許してもらおうという目論見なのでした。
しかし、重いものを持ったことのない若旦那、暑いさなかに足元もフラフラ、売り声も恥ずかしくて出せません。とうとう炎天下の下の道端に倒れてしまいました。
これを見かねた通りかかった人が、知り合いに声をかけて、あらかた唐茄子を売ってくれることに……。人の情けが身にしみます。
やっと荷物が軽くなりホッと一息ついた若旦那は、ある長屋の前を通りかかります。
若いおかみさんに「やおやさん……、唐茄子をひとつください」と声をかけられて、ひとつだけ残っていた唐茄子をサービスすることに。
その長屋で湯をもらってお昼の弁当を食べようとすると、その家の子どもが寄ってきて弁当を欲しがります。よくよく話を聞くと、その子どもは3日も食事をとっていないというではありませんか。もともと気のよい若旦那は、弁当と売り上げをおかみさんにすべてあげてしまうのです。
当然、帰ってきた若旦那からおじさんは説明を受けるのですが、これまでの放蕩ぶりからして、若旦那の説明をおじさんは信じることができず、売り上げもどこかで使ってしまったに違いないと思います。
そこで、若旦那と一緒に長屋に確かめに行くと、おかみさんと子どもはおろおろするばかり。実は、強欲な大家が、若旦那がやった金をおかみさんから家賃代わりに取り上げてしまっていたのです。
ここで悲劇が起きます。おかみさんは絶望して首をくくってしまいまったのです。怒った若旦那は、大家をポカリ……と殴ってしまいます。
そして、この騒動に役人が調べに来ます。その結果、大家はおしかりを受け、おかみさんも息を吹き返します。これがきっかけで、若旦那も勘当を許されるというハッピーエンドです。
── 後半「おかみさんが死んでしまうの……?」と息をのむシーンがあるものの、この「唐茄子屋政談」は気持ちのよい噺です。「情けは人のためならず」ということわざがありますが、これは「 人に親切にすれば、その相手のためになるだけでなく、やがてはよい報いとなって自分にもどってくる」という意味。道楽者ですが根は生真面目な若旦那。その情けがめぐりめぐって我が身にかえってきた……。今回はそんな噺をご紹介しました。