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「貝合わせ」というのは、蛤の殻の内側に絵を描いて、ばらばらになっている中から対になる2枚を見つけ出す遊びです。しかし、厳密には二つの異なる遊びが混同されて、「貝合わせ」と呼ばれるようになりました。
もともとの「貝合わせ」は二組にわかれて同じ種類の貝を出して、その形や模様、色、大きさなどを比べて優劣を決める遊びでした。平安時代に書かれたという『堤中納言物語』にも「貝合わせ」という章があり、そこでは女の子の遊びとして描かれています。
一方、今の「貝合わせ」の原型となっているのは、「貝覆い(かいおおい)」という遊びです。こちらも平安時代から行われていたものです。
蛤の貝殻を左右にわけ、片方を地貝(じがい)として座に並べ、もう片方の出貝(だしがい)と対になるものを探し、その数を競うというものです。その並べ方や合わせ方には作法があります。
本来は貝殻の甲の模様や形などで対になるものを選んでいたようですが、360個の貝殻が使われていたともいわれています。後に合わせやすいように貝殻の内側に絵を描いたり、歌を書くようになりました。
特に歌を書いたものを「歌貝覆い」「歌貝」といい、百人一首など、上の句を読み上げ、下の句が書かれた札を取る「歌がるた」の原型ともいわれています。
「貝合わせ」の貝として使われる蛤は、対になる2枚しか合いません。また、蛤はきれいな海に住むということなどから、夫婦の象徴ともなって、嫁入り道具として用意されるようになりました。
花嫁行列の先頭にこの「貝合わせ」の貝を入れる貝桶が運ばれ、嫁ぎ先に着いた時には、その家に貝桶を引き渡す「貝桶渡し」という儀式もあったそうです。
ところで蛤といえば、ひな祭りの料理も、ちらし寿司に蛤のお吸い物(うしお汁)が定番です。これも子どもの幸せな結婚を願ったものですが、実はこの時期に蛤を食べるのには、もう一つの意味があります。
日本では昔から、農作業や漁が繁忙期に入る前に、野山や海に出かけて遊んだり食事をしたり、一日を自然の中で過ごす習わしがありました。この時、磯遊びで採った蛤を神様にお供えして、その後に同じものを食べて神様の加護を願った名残ともいわれています。
── ひな祭りと蛤、意外と深いつながりがあるひな祭りと蛤の関係。
子どもが将来、すてきな縁に結ばれることを祈る親心の表れなのかもしれません。ちなみに現在の遠足や、お花見、潮干狩りも、春の野遊びや磯遊びの風習からはじまったそうです。
参考:『和のしきたり 日本の暦と年中行事』(日本文芸社)、『にっぽんの歳時記ずかん』(幻冬舎)、『もっと!暮らしたのしむ なごみ歳時記』(永岡書店)、『知っておきたい 日本の年中行事』(吉川弘文館)