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「冬至より一陽起こる故に陰気に逆らふ故、益々冷える也」
――これは、江戸時代に出版された『こよみ便覧』に記された「小寒」の説明文。本日は、昼の時間が最も短かった「冬至」から数えて15日目の「小寒」。この日をもって「寒の入り」となり、「立春」の「寒の明け」までの約1カ月間が、「寒中(かんちゅう)」「寒の内」。寒中見舞いはこの期間中に出します。
このころ早朝に見られるのが、霜の花。
暖かい日の陽ざしを浴びて咲きほころんだ早春の花が、パウダーシュガーを振りかけたような霜の結晶に美しく縁取られた様子が見られたりもします。
雪の結晶を「六花」というのに対し、霜は「三花」。北の湖では、フロストフラワーと呼ばれる幻想的な光景も目にすることができますね。
一年で最も寒さ厳しき折、冬将軍の猛威に負けないよう、食事や入浴、運動などで体をしっかり温めて、健やかにすごしたいものです。
7日の「人日(じんじつ)の節句」は、七草粥をいただく日。七草は平安の頃は、きびやひえ、ゴマといった7種の穀物だったとも聞きますし、地域によってその土地土地で採れる草を入れた「ご当地七草」もあるようです。また、粥を炊くための七草を浸した水に、爪を浸してから、新年初めての爪切りをする「七草爪」という習わしもあるのだとか。そんな無病息災、邪気払いとなる七草粥を炊く折、初詣の参拝客も少し落ち着いた頃合いでもありますし、七福神巡りへ出かけるのも一興です。
七福神とは、大黒天(だいこくてん)、毘沙門天(びしゃもんてん)、恵比寿(えびす)、寿老人(じゅろうじん)、福禄寿(ふくろくじゅ)、弁財天(べんざいてん)、布袋(ほてい)の七人の福の神の総称。江戸時代には、元旦から7日までに七福神を巡ることが招福の行事として流行したのだそうです。
東寺の毘沙門天や六波羅蜜寺(ろくはらみつじ)の弁財天、ゑびす神社などを含む京都の「都七福神」。
浄智寺の布袋様から鶴岡八幡宮の弁天様、長谷寺の大黒様などを巡る、神奈川県の「鎌倉七福神」。
東京都内なら浅草、深川など全国各地で行われる七福神巡りは、1月睦月の風物詩。地図を頼りに七福神を祀る寺社を巡って、ご朱印をいただいたり、絵馬を集めてまわるのも楽しいものです。
七つの福を授かり、七つの災いが消え去るといわれる七福神巡り。家族で、友人同士で、お一人で、心躍る初春の開運巡りはいかがでしょう。
この寒中に梅に似た花を咲かせるのが、「木瓜(ぼけ)」です。3月~4月頃が主な花の時期なのですが、冬季に咲く種類では花が秋から冬に咲くことから「寒木瓜」の名がつけられています(春になるとさらに咲く花が増え、葉も出揃うようです)。
もともと中国原産の落葉低木で、春の花木として親しまれている木瓜。高貴な風情を漂わせる梅よりも、ややぽってりと丸顔で、どこか庶民的なこの花に
~ぼけは、緋なるも白きも皆好し、刺はあれど木ぶりも好ましからずや。~と綴ったのは幸田露伴。
緋色の花の木瓜には「緋木瓜(ひぼけ)」の名もあり、緋色とは「炎のような赤」。実が瓜(うり)に似ていて木になることから、「もけ」と呼ばれ、さらに訛って「ぼけ」となったのというのが、名の由来なのだそうです。
広葉樹がすっかり葉を落とし、色味も少なく、どこか侘しい寒中の庭。
~春まだ更(た)けぬに赤くも白くも咲きだしたる、まことに心地好し。~
と、露伴も愛でた木瓜の花が、庭の片隅で炎の赤、雪の白、あるいは珊瑚のグラデーションの色を添えるのを見かけると、冬の侘しさ、寂しさも癒えるような心地になるかもしれません。これからしばし、寒さひとしおの時節、どうぞ、御身大切にお過ごしください。
※参考
花のいろいろ(幸田露伴)、きょうの料理七十二候(講談社)