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まずは日本最古の詩歌集「万葉集」のおめでたい歌から。
〈あらたしき年の始めの初春の今日降る雪のいや重(し)け吉事(よごと)〉大友家持
「あらたしき」は「あたらしき」と同じ。大意は「新年、春のはじめがきた。めでたい春のはじめに降る雪のようにいよいよよい事が重なるように」という意味です。
新しい年への期待が満ちていますが、どこか重々しい調子が厳粛な気持ちにさせます。
格調の高いクラシックな歌の次はちょっと趣向の変わった歌を。
通常元日の夜に見る夢を初夢といいますが、いい初夢を見られるように、と願って枕の下に宝船の絵を書いた紙を敷いて寝るという風習がありました。そのときに絵のかたわらに書かれた歌が次の歌です。
〈長き夜の遠の睡りの皆めざめ波乗り船の音の良きかな〉
「長い夜の遠い夢からみなさん目をさましなさい、波に乗っている船の音はよいものです」という意味でしょうか。しかし歌にはあまり意味はなく、これはかなで書くと
「なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな」となって、上から読んでも下から読んでも同じになります。これを回文(かいぶん)といって言葉遊びの一つです。
〈富士の山夢に見るこそ果報なれ路銀(ろぎん)もいらず草臥(くたびれ)もせず〉鯛屋貞柳
初夢に見るとめでたいものとして、昔からのことわざに「一富士二鷹三なすび」といいます。これにちなんだ狂歌です。富士山に行くには旅費もかかるしくたびれる。夢に見るのが一番幸せだ、という意味のユーモラスな歌。寝正月という言葉があるように、お正月に眠るのは、追い立てられることがなくて気持ちの安らぐものですね。
こんな句もあります。
〈願ふことただよき眠り宝船〉富安風生
〈宝船こころすなほに敷いて寝る〉横山蜃楼
〈把手(とって)磨けど握手は嫌ひ寝正月〉香西照雄
大掃除でドアの取手は磨いたけど、人には会いたくない、ということでしょうか。人間関係のわずらわしさもお正月くらいは忘れたいですね。
お正月にはたとえば「初詣」のように、「初~」という言葉をよく使いますが、正月気分も数日で終わり、日常が戻ってきます。早い人は2日から、4日には仕事も始まってしまいます。
コンビニなどは365日開いていますが、新年初めての買い物は「買初(かいぞめ)」などといいました。
〈石段の変わらぬ堅さ初詣で〉桂信子
〈あこがれはここに小さく初日記〉香取佳津美
〈抽斗に朱肉をさぐる事務始〉岡田貞峰
〈買初の小魚すこし猫のため〉松本たかし
お正月はゆっくりと過ごして、新しい年の英気を養いたいところです。